「意識高い系」スタートアップの幼稚で気持ち悪い実態
自分たちより若く、さらに経験が乏しいけれど、忠実な社員で周りをがっちり固めている。(129ページより)
だから、こういうことになるのだ。そして年上で周囲に溶け込みにくいと感じる著者は、ハブスポットのようなIT企業で成功するには、周囲に馴染むことが欠かせないと痛感する。
IT業界では、「社風との相性」はよい概念として語られているという。しかし著者の描写を確認する限り、それ以上の問題は、性別と人種の問題かもしれない。重要なポストに就くのは白人男性ばかりだというのである。
それだけではない。
一般社員を見回しても、私の知る限り、黒人は一人もいない。初めて社員全員が集まる会議に出たときは、ぎょっとした。隅から隅まで白人だらけ。しかも若い人ばかりだ。全員が白人というだけではない。みんな同じ種類の白人なのだ。白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」の集会でも、もっとさまざまな白人で構成されているだろう。おかしな優生学の研究所に、うっかり迷い込んだ気分だ。(中略)
私の見たところ、ハブスポットには、一握りの50代の社員と、それよりほんの少し多い40代の社員と、数十人の30代の社員がいるが、残りの大多数は20代だ。(237ページより)
ここではフェイスブック創業者兼CEO、マーク・ザッカーバーグが22歳のときに「若者のほうが賢いんだよ」と発言したことが紹介されているが、この部分もIT業界の大きな問題を指摘している。ぶっちゃけ、圧倒的なスモールサークルなのである。
しかも問題は、ザッカーバーグのような考え方をしている人は、実際のところ少なくないということだ。若い創業者に投資したがるベンチャー投資家が少なくないのも、その裏づけである。
でも、そんな企業(というよりは会社ごっこをしている子供たち)がなぜうまくいくのだろうか? 本書の核心は、その部分にある。第23章以降でそれは明らかになるのだが、つまりはベンチャー投資家と起業家が手を組んで企業イメージを肥大化させているところに問題があるのだ。
IPO(新規株式公開)までこぎつければ、本業で利益が出ていなくてもOKだということ。株価が上がって創業者と投資家にドカンと富がもたらされるというわけだ。他のスタートアップも似たり寄ったりなのではないかということは十分に推測できる。
話を戻そう。
日本でスタートアップが怪しいキノコのようにうようよ生えてきたITバブルのころ、個人的には非常に戸惑っていた。こちらはウェブ媒体にも執筆するフリーランスのライターという個人事業主だからこそ、「こんなにフワフワと浮かれたやつらとビジネスなんかできんの?」という思いが頭から離れなかったのだ。
ちなみに、そういうチャラいやつらは時代の経過とともに面白いほど消えていった。1990年代初頭の、バブル崩壊のときとまったく同じ図式だ。そういう意味では、ここに描かれているような「オーサムな」"子供たち"が、10年後にどうなっているかは非常に興味深いところではある。
【参考記事】日本のインターネットの「屈折」を読み解くキーワード
『スタートアップ・バブル――愚かな投資家と幼稚な起業家』
ダン・ライオンズ 著
長澤あかね 訳
講談社
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。
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