最新記事

BOOKS

「意識高い系」スタートアップの幼稚で気持ち悪い実態

2017年8月14日(月)19時19分
印南敦史(作家、書評家)


自分たちより若く、さらに経験が乏しいけれど、忠実な社員で周りをがっちり固めている。(129ページより)

だから、こういうことになるのだ。そして年上で周囲に溶け込みにくいと感じる著者は、ハブスポットのようなIT企業で成功するには、周囲に馴染むことが欠かせないと痛感する。

IT業界では、「社風との相性」はよい概念として語られているという。しかし著者の描写を確認する限り、それ以上の問題は、性別と人種の問題かもしれない。重要なポストに就くのは白人男性ばかりだというのである。

それだけではない。


 一般社員を見回しても、私の知る限り、黒人は一人もいない。初めて社員全員が集まる会議に出たときは、ぎょっとした。隅から隅まで白人だらけ。しかも若い人ばかりだ。全員が白人というだけではない。みんな同じ種類の白人なのだ。白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」の集会でも、もっとさまざまな白人で構成されているだろう。おかしな優生学の研究所に、うっかり迷い込んだ気分だ。(中略)
 私の見たところ、ハブスポットには、一握りの50代の社員と、それよりほんの少し多い40代の社員と、数十人の30代の社員がいるが、残りの大多数は20代だ。(237ページより)

ここではフェイスブック創業者兼CEO、マーク・ザッカーバーグが22歳のときに「若者のほうが賢いんだよ」と発言したことが紹介されているが、この部分もIT業界の大きな問題を指摘している。ぶっちゃけ、圧倒的なスモールサークルなのである。

しかも問題は、ザッカーバーグのような考え方をしている人は、実際のところ少なくないということだ。若い創業者に投資したがるベンチャー投資家が少なくないのも、その裏づけである。

でも、そんな企業(というよりは会社ごっこをしている子供たち)がなぜうまくいくのだろうか? 本書の核心は、その部分にある。第23章以降でそれは明らかになるのだが、つまりはベンチャー投資家と起業家が手を組んで企業イメージを肥大化させているところに問題があるのだ。

IPO(新規株式公開)までこぎつければ、本業で利益が出ていなくてもOKだということ。株価が上がって創業者と投資家にドカンと富がもたらされるというわけだ。他のスタートアップも似たり寄ったりなのではないかということは十分に推測できる。

話を戻そう。

日本でスタートアップが怪しいキノコのようにうようよ生えてきたITバブルのころ、個人的には非常に戸惑っていた。こちらはウェブ媒体にも執筆するフリーランスのライターという個人事業主だからこそ、「こんなにフワフワと浮かれたやつらとビジネスなんかできんの?」という思いが頭から離れなかったのだ。

ちなみに、そういうチャラいやつらは時代の経過とともに面白いほど消えていった。1990年代初頭の、バブル崩壊のときとまったく同じ図式だ。そういう意味では、ここに描かれているような「オーサムな」"子供たち"が、10年後にどうなっているかは非常に興味深いところではある。

【参考記事】日本のインターネットの「屈折」を読み解くキーワード


『スタートアップ・バブル――愚かな投資家と幼稚な起業家』
 ダン・ライオンズ 著
 長澤あかね 訳
 講談社

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州の洋上風力大手2社、欧州各国に政策の改善要請

ビジネス

米ロビンフッド、第3四半期利益は予想超え 個人投資

ビジネス

米スターバックス労組、バリスタの無期限ストを承認

ビジネス

アルゼンチン向け民間融資、必要ない可能性=JPモル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中