最新記事
サイバー戦争

ランサムウエア「WannaCry」被害拡大はNSAの責任なのか

2017年5月16日(火)18時35分
エリアス・グロル

WannaCryランサムウエアが身代金を要求している画面 Courtesy of Symantec/REUTERS

<被害拡大はウィンドウズの脆弱性に気付きながら知らせなかったNSAのせいだ、とマイクロソフトは言う。だが、今回狙われたウィンドウズXPを2014年から放置していたのはマイクロソフトだ>

先週末から、米マイクロソフトの基本ソフト「ウィンドウズ」を標的にしたサイバー攻撃の被害が、世界中に広がっている。イギリスでは医療機関のコンピューターがウイルスに感染してシステムが停止、患者の受け入れを中止した。フランスでは自動車大手ルノーの工場が一部操業停止に追い込まれ、ロシアでは内務省のコンピューター約1000台が攻撃を受けた。

マイクロソフトはウイルス感染の責任は米国家安全保障局(NSA)にあるとして、名指しで批判している。NSAは、ウィンドウズの脆弱性を突く今回のウイルス「WannaCry(ワナクライ)」の存在を知りながらサイバー兵器として秘匿していた。大きな被害をもたらすことになったのはそのせいだ、という。NSAのような政府機関はウイルス情報を外国政府へのハッキングに利用するのではなく、メーカー側に開示すべきだ、というのがマイクロソフトの主張だ。

だが、WannaCryを開発したのはNSAではない。NSAが開発したツールを正体不明のハッカー集団が悪用して開発した。NSAは図らずもその供給源になってしまっただけだ。

盗み出されたサイバー兵器

WannaCryを開発した犯人の正体は謎のままだが、初期の段階で疑われたのは北朝鮮だ。ロシアの情報セキュリティー企業カスペルスキーの研究者は、使用されたコードやツールの一部が、過去のサイバー攻撃で北朝鮮が使用したものと一致することを突き止めた。ただし同社はブログで、北朝鮮の仕業と断定するのは時期尚早と警告している。

WannaCryは「ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)」と呼ばれる種類のウイルスで、感染したコンピューターのデータを暗号化して使えなくして、元に戻したければ身代金を払え、と要求する。すでに世界で20万台以上のコンピューターを感染させ、仮想通貨ビットコインで5万ドル以上が身代金として支払われた。

いったい、このハッカー被害の責任は誰にあるのか。

今年4月、自称「シャドー・ブローカーズ」という正体不明のハッカー集団が、NSAから盗んだと称するハッキングツールを公開した。その中にはウィンドウズ・ワードの脆弱性を悪用するコード「エターナル・ブルー」が含まれていた。ウィンドウズ・マシンからウィンドウズ・マシンへとウイルスを送りつけるコードだ。WannaCryの開発者は、NSAが使うこのハッキングツールを利用して、ランサムウエアの感染を広げるメカニズムを作り上げた。

【参考記事】NSAの天才ハッカー集団がハッキング被害、官製ハッキングツールが流出

つまり、マイクロソフトのソフトウエアの欠陥を突いて敵国を攻撃するために開発したNSAのサイバー兵器が、米政府の手をすり抜けてハッカー集団の手に渡り、金儲け用に作り替えられ悪用されたのだ。

【参考記事】サイバー攻撃で他国を先制攻撃したいドイツの本音

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

長期金利、様々な要因を背景に市場において決まるもの

ワールド

中国と推定される無人機、15日に与那国と台湾間を通

ワールド

中国、ネット企業の独占規制強化へ ガイドライン案を

ワールド

台湾総統、中国は「大国にふさわしい行動を」 日本と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中