世界一幸福な国は2035年カーボンニュートラル達成へまい進 社会変革を目指すフィンランドのスタートアップ企業
森林の土壌にいる菌からたんぱく質を
日本で一般に親しまれているプロテインの粉は、牛乳や大豆が原料だ。一方、ソーラー・フーズ社(2018年設立)のプロテインの粉は、フィンランドの森の土壌にいる菌を原料としている。数え切れないほどの微生物の中から選んだ1つの菌に栄養分を与え増殖させる。光合成の20倍効率的なプロセスだという。それを乾燥させると、粉状の黄色いプロテイン「ソレイン」が出来上がる。「ビールやワインと同じ製造法です」とCXO(Chief Experience Officer=最高経験責任者)のラウラ・シニサロさんは説明する。
ソレインは食品業界に販売し、あらゆる飲食品に使ってもらう計画だ。今年5月、ソレインは、シンガポールで初めて食品として紹介された。来年からヘルシンキの新工場が稼働し、ソレインを大量生産する。実際にソレイン(粉末)を口にしたところ少し甘かった。ソレインを使った料理も試食したところ美味しいと感じた。食べやすく、普及する可能性は高いかもしれない。
筆者は、フィンランドの環境ビジネスについてはこれまであまり知らなかったが、今回の取材で興味深いビジネスを次々と目の当たりにし、このような「新しいイノベーション」に囲まれる暮らしを想像したら、興奮が冷めやらなかった。
また、そういった消費者目線とは別に、これらの新しい技術を見て感じたことは、各社の気概が並々ならないということだ。気候変動対策としては一社の新製品では微力でも、フィンランド全体やヨーロッパで、皆でがんばっていこうという姿勢がひしひしと感じられた。
もう1つは、女性が重要な任務に就いていること。訪問した企業やVTTでは、女性が多数派だった。フィンランドは職場でも男女平等を実践していると聞いていたが、本当にそうであることに少なからず衝撃を受けた。日本では、気候変動対策や技術開発において人材不足の問題も指摘されている。女性がもっと活躍できれば、環境対策が加速するのではないか。
その一方で、課題もあるのではないかと感じた。新しい製品が、考え方や価格の点で、ほかの企業や一般の人々にどれくらい受け入れられるだろうか。もしかしたら、期待するほどには広まらないこともあるだろう。
だが、こうした課題はあるにせよ、気候変動対策に前進しているフィンランドの企業の姿勢はやはり高く評価したい。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com