最新記事
SDGs

世界一幸福な国は2035年カーボンニュートラル達成へまい進 社会変革を目指すフィンランドのスタートアップ企業

2023年10月16日(月)17時20分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

スラパック社の製品と共同摂理者のひとり、ラウラ・ティルッコネン-ラヤサロ

スラパック社に展示された製品例。高級ブランドのシャネルも、化粧品容器に「スラパック」素材を使用。手前は、共同設立者の1人、ラウラ・ティルッコネン-ラヤサロさん。

スラパック社(2016年設立)も、木材ベースのプラスチック素材を開発した。木材はチップや粉などになった廃材で、農業廃棄物も使う。同社のミッションは、生態系全体に悪影響を与えるマイクロプラスチックの問題を解決すること。

様々な企業がスラパック社のプラスチック素材を購入し、化粧品容器や食器、スピーカーなどの製品を作っている。

「スラパック」プラスチックは、生分解性だ。市場に出回ったスラパック製品は、回収され、処理施設で完全に堆肥化されることを想定している(回収・堆肥化は各製品メーカーの責任)。家庭用コンポストは、堆肥化にかなり時間がかかる場合があるため勧めていない。もし、スラパック製品がごみとして焼却されても、CO2排出量は化石燃料由来のプラスチックより少ない。また、製品が屋外に廃棄されても、植物などと同じスピードで分解される(1~5年ほどで完全に分解)。

スラパック社は、スラパック製品を化学分解して、再び材料にするプロセスの構築も進めている。

著名ブランドが、木や古着から作った繊維を採用へ

ファッション業界は、製造から消費まで多くの環境問題を引き起こしている。CO2排出や水の大量消費、着なくなったり売れ残った服の処理問題もある。古着は、日本からもヨーロッパからも途上国などに輸出され、結局、使われることなくごみとなって捨てられているという実態も報道されている。

日本では、いくつかのファッションブランドが古着を再販したりリメークする、規格外生地で衣類を作るといった環境負荷を減らすアイデアを形にしている。ヘルシンキで見た新繊維も、こうした流れにある画期的な取り組みだ。

マリメッコ本社と「マリメッコ×スピンノヴァ繊維」のシリーズ

染色工場併設のマリメッコ本社。昨年、本社のCO2排出量を2019年比で72%削減した。「マリメッコ×スピンノヴァ繊維」のシリーズは、マリメッコを代表するウニッコ柄。

日本でも人気のファッションブランド、マリメッコの哲学は「タイムレスで長持ちするファッション」。同社は、サステナビリティを強化している。繊維や染料の気候への影響低減は、その一例だ。天然染料のシリーズ、余り布を糸にして布を織り、新しい商品にしたシリーズなどを発表している。2022年夏に発売された、「マリメッコ×スピンノヴァ」シリーズも、環境に配慮している。

同社を代表するデザインとして有名なウニッコ柄(ケシの花)のシリーズ(ジャケット、パンツ、バッグ)は、デニムのような素材感。環境に優しい秘密は、クモの糸にヒントを得た繊維「スピンノヴァ」だ。布の成分は約 20% がスピンノヴァで、残りはコットン(大部分がオーガニックコットン)。

スピンノヴァの繊維と工場

手前左の短い繊維が「スピンノヴァ」。非常に柔らかい。中央は糸、右は布にした状態。背後は繊維の原料。今秋完成した初の工場(画像©SPINNOVA)で、持続可能な方法で栽培されたユーカリの木の繊維からスピンノヴァ繊維を製造する。

スピンノヴァ繊維の原料は木材、農業廃棄物、繊維くず、皮革のくずなど。材料別に製造工場を建設するという。製造において、有害な化学物質は一切使用しない。従来の綿と比較して、水の消費量は99.5%削減され、CO₂排出量は74%少ないという。

スピンノヴァは100%生分解性で、マイクロプラスチックも出さない。数回にわたって100%リサイクルでき、品質は損なわれないという。

スピンノヴァ社の設立は2015年。当時すでに、世界の繊維生産の需要は高まる一方で、土地不足と水の減少により、綿の供給が大幅に減少していくと予想されていたという。同社は、綿ではない、木材のような再生可能な原料と、環境負荷を最小限に抑えた繊維製造法を広げていく必要があると考え、何年もかかって新技術を開発した。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中