手に負えないのはADHDだから? 家族に順位を付け、父親を「君づけ」で呼ぶ不登校小6男子の場合
食事のときの席次も変えたようです。
以前は、J君が祖父の隣で食事をしていましたが、母親の提案でその場所には父親が座るようになりました。
J君の両親は親ガイダンスにも意欲的で、自分たちの行動を変えていく力に富んでいました。自分の思いどおりにならないことに戸惑ったJ君が、祖父の助けを得ようとしたこともありました。当初は、従来のパターンが繰り返されてしまうこともありましたが、両親、それに祖父も自覚していたことで、徐々にそれが減っていきました。
それとともに、J君の自分勝手な行動はおさまっていきました。やがて、保健室登校を経て、約9か月後には再登校するようになりました。
不安に駆られると、親はドクターショッピングに
今回は、両親、それに祖父との関係が一番の焦点になりましたが、忘れてはならないのは、J君を受診させるために母親がついたウソでした。J君にとって「親にウソをつかれた。騙された」という経験になってしまいました。
子どもは親に「同一化」して成長していきます。「親の振り見て我が振りにする」わけです。親は子どもにウソをつくことが、どんな結果をもたらすかをよく考える必要があります。「どうせ、わからないだろう」と高をくくっても、子どもは案外よく親を観察しているものです。
また、不安に駆られた親が、次から次へと医療機関をめぐる「ドクターショッピング」に、自分の子どもをつきあわせることがあります。
相性の合う専門医を選ぶことは重要です。しかし無理やり子どもを精神科や心療内科に引っ張っていくのではなく、まずは親が「信頼できる」と判断した上で本人を受診させたほうが、子どもの負担は軽くなるかもしれません。
今回のケースのように、周囲から見れば「おかしい」と思うことでも、その渦中にいる当事者が気付かなくなってしまうことはしばしばあります。
子どもの成長や行動などに関して、家庭の中だけでは解決不能だと思うことがある場合には、専門医を受診することをお勧めします。
J君は忘れ物が多く、日頃の生活に落ち着きがないことから、ADHDを疑われて来院しました。しかし、親ガイダンスによって症状は改善しました。彼はADHDではありませんでした。
最近ではADHDに対する社会の関心が高まって、病名だけが独り歩きをしていると感じることがあります。
「うちの子は全然勉強をしないのでADHDじゃないでしょうか」と心配し、子どもを連れて来院する親御さんがときどきいます。J君と同じように、生まれつきの脳の問題というよりも、子どもが身を置いている環境に対するストレス反応として、ADHDのような症状が起きていることもしばしばあるのです。
症状だけではなく、子どもの気持ちや環境についても、心を配り、理解する必要があるのです。
関谷 秀子(Sekiya Hideko)
精神科医。医学博士。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。専攻は児童青年精神医学、精神分析学。思春期の情緒障害の臨床と研究を主な仕事としている。
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