最新記事
スポーツ

「春はサイクリングの季節」膝の負担も少なく身体能力を高められる自転車の驚きの健康効果

2024年4月8日(月)11時28分
書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」 *PRESIDENT Onlineからの転載

【「軽めのギアでペダルを高回転でこぐ」のがコツ】

まず、「主観的な疲労度」について見ていきましょう。実験の結果、いずれの運動強度でも、サドルが高い方が主観的な疲労感は低くなるという結果が出ました。次に、生理的な疲労について見ていきましょう。

筋肉の疲労を測る目安に、血液中の「乳酸値」があります。乳酸値は高い方が筋肉が疲労していることになります。運動強度の低いI、IIでは、血液中の乳酸値はあまりかわりません。

しかし、運動強度が高くなるIII、IVでは、サドルの高さによって、乳酸値に大きな差が表れ、サドルを推奨の高さにした方が疲れにくいことが見て取れます。

なぜ、この差が生まれるのでしょうか。サドルが低い場合、高い場合に比べてひざがより深く曲がった状態で力を入れることになります。これにより血管が圧迫されて、脚の血流が滞りやすいからだと考えられます。

「疲れないで運動強度を高める」自転車の乗り方で、もうひとつ重要なポイントがあります。それが、ペダルの回転数です。結論からいうと、乳酸をためずに脚が疲れないようにするコツは、「軽めのギアでペダルを高回転でこぐ」ことです。

newsweekjp_20240408003717.jpg

ViDI Studio - shutterstock

【意識せずこぐと「1分間に55~60回転」】

人には左右の脚を交互に動かすさいの固有のリズムがあります。そのため、とくに意識せずにペダルをこぐと、軽めのギアでも1分間に55~60回転にしかなりません。最初は65回転を目標にしてください。慣れてきたら、1分間に70~75回転を目指しましょう。

ペダリング技術に長けたサイクリストたちは、1分間のペダル回転数が90回以上という高速回転を好みます。これはエネルギー消費量が少なくなるからだと以前は考えられていました。

しかし私たちの実験結果は、エネルギー消費量がもっとも少なくなるのは1分間に70回転、筋放電量増加率(*値が小さいほど乳酸がたまらず脚が疲労しにくい状態だと考えられる)がもっとも小さくなるのは80~90回転でした。

サイクリストはエネルギー消費量よりも脚が疲労しにくいことを優先して、ギアの重さとペダル回転数を選んでいるようです。80~90回転という高速回転により、筋放電量増加率は最も低くなって脚は疲労しにくくなり、酸素消費量は上昇して心拍数が上がり運動強度は高くなっています。

サイクリストたちは、まさに「疲れないで運動強度を高める」自転車の乗り方を実践しているのです。

【歩行よりも自転車のほうが血糖値は下がる】

歩行と自転車の糖代謝に対する効果を比較してみましょう。有酸素性のエネルギー代謝では、糖質や脂質が酸素と反応して二酸化炭素と水ができます。安静時には糖質と脂質は同じくらいの比率で使われていますが、運動を始めてその強度が強くなるにつれて糖質が使われる比率が高くなります。

糖質と脂質がどれくらいの割合でエネルギー源として使われているかは、呼吸で排出された二酸化炭素と吸収された酸素の体積比で知ることができます。その比を「呼吸商」と呼びます。

同じ強度の運動をした場合に、歩行と自転車運動では、どちらの方が糖を使う割合が高くなるのでしょうか。私たちは、糖尿病患者9名と健康な成人10名にご協力いただき、実験室で歩行と自転車運動を行ったときの呼吸商を測定しました。すると、糖尿病患者と健康な成人のどちらのグループも、いずれの運動強度でも、歩行より自転車運動の方が呼吸商の数値が高くなりました。

この結果は、同じ運動強度では、歩行よりも自転車運動の方が糖をたくさん消費して血糖値を下げる効果があることを示しています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中