最新記事
日本社会

今や満員電車でリュックを前に抱えるのは「マナー違反」 鉄道各社「荷物は手に持って」、その狙いは?

2023年4月10日(月)17時00分
枝久保 達也(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家) *PRESIDENT Onlineからの転載

スマホが使いやすくなったぶん、配慮が疎かに

記事は「以前よりは、デイパックやリュックサックが増えています。当社の小売店に来られるお客さまからは『外出先でも、スマホに仕事関係のメールが来るし、初めて行く場所はスマホの地図を頼りに歩くので、両手が空くリュックは使い勝手がよい』という声もあります」という吉田カバン担当者のコメントを紹介している。

クールビズの定着などビジネスシーンのカジュアル化や、モバイルパソコンやタブレットを持ち運ぶ機会の増加など流行の素地はさまざまだが、やはり両手が空くためスマホを使いやすいという点が大きいように思う。そうなると、手元のスマホに夢中になって背中を疎かにする人に冷たい視線が集まる光景が浮かんでくる。

そもそもリュックは手荷物の中でも特にかさばる存在だ。一般的に使われる機内持ち込み可能サイズのスーツケースは「3辺の合計が115cm以内かつ3辺それぞれの長さが55×40×25cm以内」、つまり厚さは25cm以下である。

対するリュックの厚みは、筆者のAmazonアカウントでリュックサックと検索し「おすすめ」に表示された5件から拾ってみると、20cm、20cm、16.5cm、13cm、21cmだ。スーツケースを抱えて持つ人はいないが、リュックは身体で最も厚い胸周りに装着する。

関西は定期輸送人員が90%程度まで回復

鉄道は冬に遅れやすくなるが、これはコートなどを着込むことで一人あたりの体積が増える「着ぶくれ」で混雑が悪化するためだ。リュックは着ぶくれどころの話ではない。成人の胸板の厚さが22cm程度であることをふまえれば、リュックを背負った人は2人分の厚みがあることになる。

意識が届かない背中より前に抱えるほうがいいのは間違いないが、後ろであれ前であれ、胸元にこれほど厚みのあるものを置くのは混雑にとって悪影響でしかない。

ただ鉄道の混雑事情は2018年以降、大きく変化している。言うまでもなく新型コロナである。国土交通省の調査によれば、東京圏の朝ラッシュ時間帯主要路線混雑率(ピーク1時間平均)は2019年の163%から2020年は108%、2021年は107%へ、関西圏は126%から103%、104%へと大幅に減少した。

期せずして混雑解消が実現したことで、2020年の迷惑行為ランキング(総合)では「荷物の持ち方・置き方」は前年の3位から6位に後退し、割合も前年比11ポイント減の21.0%となった。2021年は同6位ながら2ポイント減の19.0%だった。

鉄道経営に甚大な影響をもたらした新型コロナだが、今年度に入り徐々に日常を取り戻しつつある。関東・関西大手民鉄14社の第3四半期(10月~12月)の輸送人員は、2020年がコロナ前の75~80%程度、2021年度は80~85%程度だったのに対し、2022年度は85~90%の水準まで回復。定期輸送人員に限れば、首都圏よりテレワーク実施率が低いこともあり、関東が80~85%程度なのに対し、関西は90%程度まで回復している。

日本
【イベント】国税庁が浅草で「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録1周年記念イベントを開催。インバウンド客も魅了し、試飲体験も盛況!
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米10月住宅価格指数、前年比1.7%上昇 伸び13

ワールド

プーチン氏、イラン大統領と電話会談 核計画巡り協議

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中