最新記事
少子化対策

子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」

2023年3月24日(金)13時30分
浜田敬子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

「育休のリスキリング支援」も的外れ

ここまで反対しておきながら、突然自民党からも所得制限撤廃の主張が飛び出してきた背景には、もちろん少子化が抜き差しならない事態になっているということもあるだろうが、4月に差し迫った統一地方選対策という見方も大きい。そうなれば結果的にこれまでの「場当たり」的な対策と何ら変わりはない。

これまでの少子化対策が奏功しなかったのは、女性や子どもにとって本当に必要なものは何かという視点から外れた、当事者不在の議論が続いているからだ。

そういう意味では、「育休のリスキリング支援」もその延長ではないか。この岸田首相の発言も子育て世代から「育児の大変さを理解していない」という反発を浴びた。私の周囲にも育休中に資格を取得したり、勉強をしたりしている女性たちもいて、AERA時代に記事にもしたことがあるが、育休中に学べるかどうかは子どもの状況や家族の事情、育児支援体制の有無によっても違う。

そして大事なことは、女性たちがなぜそこまでしようとするのかを理解しているかだ。復職した際に職場できちんと居場所があるように、短時間勤務でも成果を上げられるように、という切実さが背景にはあるのだから。

ハンガリーに学ぶ、少子化対策の光と影

そもそも少子化対策を語る前提として、国が出生率の目標を掲げ、何がなんでも出産を、と奨励するような社会を、私は決していいと思わない。子どもをもつかもたないか、結婚をするかしないかは個人の意思が尊重されるべきだ。

最近はハンガリーの大胆な少子化対策が注目を集めているが、これにも注意が必要だ。毎日新聞の特派員が各国の少子化対策を取材しまとめた『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』(毎日新聞出版)は、対策の光と影の二面性をきちんと取材した良書だが、それによると、ハンガリーの少子化対策は比較的中高所得層に手厚く、困窮世帯には適していないと野党は批判している。

そして現在の対策の根底にあるのが、男女が結婚し子どもを産み育てるという伝統的な家族観だという。現在のオルバン政権は右派的政策をとり、LGBTQなど性的マイノリティーに対する厳しい政策で知られる。中・東欧諸国での「人口減のパニック」は反移民・反難民意識へとつながっている側面もある。このように少子化政策はその背景にあるものを理解しなければ、国や社会のために産み育てよという人口政策になりかねない。

大事なことは、一人ひとりを尊重するという前提から出発しているかということだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中