最新記事
少子化対策

子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」

2023年3月24日(金)13時30分
浜田敬子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

非婚化・非正規化をどう解決していくか

今の日本では子育てや教育費の負担を考えて子どもをもつことを諦めたり、結婚すら遠い存在に感じてしまう若い世代が多いということはさまざまな調査からわかっている。1989年は19.1%だった非正規雇用で働く人たちの割合は、2021年には36.7%と倍増。少子化の要因は「非婚化とその背景にある非正規化」であり、若い世代の経済的不安と将来不安を払拭しない限り少子化対策の実効性は薄いと指摘する専門家は多い。

中央大学の山田教授は、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか』の中で、「大卒でなかったり、地方在住だったり、中小企業勤務や非正規雇用者の置かれた状況や態度、意識などを中心に考えないと、少子化対策どころか少子化の実態を理解することさえもできない」と述べている。

前出の大和総研のレポートをまとめた是枝俊悟さんは、「夫婦とも正規雇用の場合、多額の公費が投入される保育所や育児休業給付金を利用することで、その収入を確保できている面もある。一方、非正規の女性は育休給付金や保育所などの支援を得られていないことが多い」(朝日新聞デジタル 時時刻刻 1月20日)と指摘し、まず支援の対象外にある人たちへの支援の拡充を訴えている。

「出生率世界最低」の韓国は方針転換

参考になるのが、韓国の少子化対策だ。2021年の合計特殊出生率が世界最低の0.81を記録した背景には日本と同様、若者の非婚化と晩婚化がある。高騰する住居費や厳しい就職状況、経済的状況から働く女性が増えているにもかかわらず、家父長制や性別役割分業意識が根深く残り、家事育児の負担が女性に偏っていることが急激な少子化をもたらしてきた。

深刻さも要因も日本と共通する部分は多いが、実は韓国は2019年頃から少子化に対する考えを大きく変えている。前出の『世界少子化考』に掲載された呉学殊(オウ・ハクスウ)労働政策研究・研修機構統括研究員のインタビューによると、それまでの出産を奨励する政策では出生率は下がる一方で全く改善しなかったという。

そこで2021年から始まった第4次少子化・高齢社会基本計画では、出生率の目標を掲げて出産を奨励するのではなく、生活の質を改善する、社会の根本を変える方向に舵を切った。その根本にあるのは「人権重視」の考え方だと述べている。

その一つが、女性が差別を受けずに働き続け、生活と両立できるようにすることだ。

「女性のWLB(ワーク・ライフ・バランス)を充実させることは子どもを産むための環境づくりではなく、男女差を無くすためです。(中略)全生涯において豊かで暮らしやすい社会づくりをすることで、結果として出生率が上がっていくだろうという考えです」(『世界少子化考』より)

まさに日本も取るべきは、この一人ひとりの人権や生活を尊重した社会づくりではないだろうか。こうしたアプローチは時間がかかるかもしれないが、それこそが少子化の本質的な解決につながると思う。

浜田敬子(はまだ・けいこ)

ジャーナリスト
1966年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部へ。2014年に女性初のAERA編集長に就任した。17年に退社し、「Business Insider Japan」統括編集長に就任。20年末に退任。現在はテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」などのコメンテーターのほか、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)、『男性中心企業の終焉』(文春新書)。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中