子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」
非婚化・非正規化をどう解決していくか
今の日本では子育てや教育費の負担を考えて子どもをもつことを諦めたり、結婚すら遠い存在に感じてしまう若い世代が多いということはさまざまな調査からわかっている。1989年は19.1%だった非正規雇用で働く人たちの割合は、2021年には36.7%と倍増。少子化の要因は「非婚化とその背景にある非正規化」であり、若い世代の経済的不安と将来不安を払拭しない限り少子化対策の実効性は薄いと指摘する専門家は多い。
中央大学の山田教授は、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか』の中で、「大卒でなかったり、地方在住だったり、中小企業勤務や非正規雇用者の置かれた状況や態度、意識などを中心に考えないと、少子化対策どころか少子化の実態を理解することさえもできない」と述べている。
前出の大和総研のレポートをまとめた是枝俊悟さんは、「夫婦とも正規雇用の場合、多額の公費が投入される保育所や育児休業給付金を利用することで、その収入を確保できている面もある。一方、非正規の女性は育休給付金や保育所などの支援を得られていないことが多い」(朝日新聞デジタル 時時刻刻 1月20日)と指摘し、まず支援の対象外にある人たちへの支援の拡充を訴えている。
「出生率世界最低」の韓国は方針転換
参考になるのが、韓国の少子化対策だ。2021年の合計特殊出生率が世界最低の0.81を記録した背景には日本と同様、若者の非婚化と晩婚化がある。高騰する住居費や厳しい就職状況、経済的状況から働く女性が増えているにもかかわらず、家父長制や性別役割分業意識が根深く残り、家事育児の負担が女性に偏っていることが急激な少子化をもたらしてきた。
深刻さも要因も日本と共通する部分は多いが、実は韓国は2019年頃から少子化に対する考えを大きく変えている。前出の『世界少子化考』に掲載された呉学殊(オウ・ハクスウ)労働政策研究・研修機構統括研究員のインタビューによると、それまでの出産を奨励する政策では出生率は下がる一方で全く改善しなかったという。
そこで2021年から始まった第4次少子化・高齢社会基本計画では、出生率の目標を掲げて出産を奨励するのではなく、生活の質を改善する、社会の根本を変える方向に舵を切った。その根本にあるのは「人権重視」の考え方だと述べている。
その一つが、女性が差別を受けずに働き続け、生活と両立できるようにすることだ。
「女性のWLB(ワーク・ライフ・バランス)を充実させることは子どもを産むための環境づくりではなく、男女差を無くすためです。(中略)全生涯において豊かで暮らしやすい社会づくりをすることで、結果として出生率が上がっていくだろうという考えです」(『世界少子化考』より)
まさに日本も取るべきは、この一人ひとりの人権や生活を尊重した社会づくりではないだろうか。こうしたアプローチは時間がかかるかもしれないが、それこそが少子化の本質的な解決につながると思う。
浜田敬子(はまだ・けいこ)
ジャーナリスト
1966年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部へ。2014年に女性初のAERA編集長に就任した。17年に退社し、「Business Insider Japan」統括編集長に就任。20年末に退任。現在はテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」などのコメンテーターのほか、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)、『男性中心企業の終焉』(文春新書)。