最新記事
少子化対策

子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」

2023年3月24日(金)13時30分
浜田敬子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

「子育て罰」を課す日本の厳しい現状

日本では、このペナルティーの意味をもっと大きく捉えた「子育て罰」という言葉まで生まれている。内閣府の子どもの貧困対策に関する有志者会議のメンバーでもある末冨芳日本大学教授は著書『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)の中で、「子育て罰」を日本が「子どもと子どもをもつ世帯の冷たく厳しい国」である現状を捉えるための概念として紹介している。

「日本の政策は、児童手当などの『現金給付』、教育無償化などの『現物給付』ともに不十分で、子どもと子育てする親の生活を、所得階層にかかわらず苦しめています」と指摘し、政策だけでなく社会や企業も「子育て罰」の拡大に貢献してきたという。

企業は雇用や賃金、昇進などにおいて女性を差別してきたことで母親の就労は不安定化。背景にあるもの、つまり「子育て罰」の正体は、親、特に母親に育児やケアの責任を押し付け、父親の育児参加を許さず、教育費の責任も親だけに負わせてきた、日本社会のありようそのものとしている。

その上で政治の課題として、①場当たり主義的な政治、②少なすぎる子ども・家族への投資、③子どもを差別・分断する制度の3点があると指摘している。

日本の子育てや教育に対する公的支援が主要先進国の中で少ないという指摘は、少子化対策を論じる際に散々言われてきたことである。その根本的な要因は、そもそも子育ても教育も(そして介護も)、本来的には家族がするものである、という自民党を中心とした考え方だ。その裏側には男性が主たる稼ぎ手であり、女性が家事育児をするものという性別役割分業意識が剝がれない澱のようにこびりついている。

「子育ては家族で」思想が巣食っている

その家族主義が顕著に表れているのが、児童手当の所得制限撤廃に関する議論だろう。児童手当はこれまでの政権や経済状況によって二転三転、規模の拡大や縮小が繰り返され、子育て世代は翻弄されてきた。そもそも子どもが生まれた年によって、支援が異なるのはおかしくないだろうか。

原則として国民に「自助」を求める自民党の政策が大きく変わったのは、2009年民主党政権が誕生してからだ。それまでの児童手当に代わり、所得制限のない「子ども手当」が設けられた。結果的に民主党政権も財政難から規模を縮小したが、政策の根底には「社会全体で子どもの育ちを支える」という考えがあった。

だが、これが自民党からは徹底的に攻撃された。テレビなどで何度も流されている丸川珠代参院議員の「この愚か者」「馬鹿ども」という発言がそれを象徴している。根底には、「子育ては一義的には親、家庭が責任をもつもの」という家族主義がある。

自民党の綱領は、再配分で国民の自立心を損なう社会主義的な政策はとらないと明言。民主党政権の子育て政策を、安倍元首相が「(民主党の子育て政策は)子育てを家族から奪い取り、国家や社会が行う子育ての国家化、社会化です。これは実際ポル・ポトやスターリンが行おうとしていたことです」と月刊誌『WiLL』(2010年7月号)のインタビューに答えている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中