最新記事

ライフスタイル

「将来のために今は我慢」は間違い!? 哲学者が説く「本当に幸せな人生」のあり方とは

2022年7月11日(月)20時22分
岸見一郎(哲学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

私は「未来に向けた原因論」という言葉を使うことがあります。本来、原因は過去にあるので、未来について「原因」という言葉を使うのはもちろんおかしいのですが、未来に起こることが、今の人生、そしてこれからの人生のあり方を決める原因となると考えるという意味です。

これからよいことは決して起こらないとか、今いいことがあってもどうせ長続きしない、最後には必ず何か悪いことが起こると考える人は大抵、今の状況を改善する努力をしないことを決心しています。そのように考えることで、今幸福である人は今の幸福にブレーキをかけますし、今不幸であると感じている人は、不幸の原因は未来に起きる悪しき出来事だと考えるからです。

「人生が思うようにならないのは自分のせいではない」

実際には、未来に何が起こるかはわからないので、これから起こる出来事を今の人生を前向きに生きられない原因にすることはできません。これからどうなるかもわからない人生を切り拓いていけるのは自分だけなのですが、どんな努力もしないでおこうと思う人は、これから起こる出来事はよくないことだと決めておけば、人生が思うようにはならなくても、その原因を自分のせいにしなくてすみます。

もちろん、どんなに努力しても人生が思い通りになるわけではありません。思いもかけない事態が訪れて、人生の行く手を阻むことがあるからです。

それでも、何もしないより、できることをしていけば、人生は必ず変わっていきます。たとえ不幸な出来事に遭遇したとしても、悲しみにただうちひしがれているのでなく、悲しみを梃子(てこ)にして人生を生き抜く勇気を持つのと持たないのとでは、大きな違いがあります。

起こった出来事が本当に不幸かはわからない

不幸な出来事と書きましたが、起こった出来事が本当に不幸なのかどうかは、少なくともその時点ではわかりません。

これから人生を共にしようと思える人と出会うことなく、一人で生き、最後には孤独死するかもしれないという不安を持った人でも、誰かと出会い結婚するかもしれません(もっとも、そのことが幸福であるかもわからないのですが)。

初めから誰とも結婚しないと決めている人であれば、たとえ誰かと出会っても、その人を恋愛対象と見ないでしょうから、その人と恋愛し結婚することはないでしょう。

そうであれば、その人が誰とも出会わないとしても、それは自分で決めていることなので、それを不幸であるとはいえないでしょう。

反対に、結婚し幸福の絶頂にあると思っている人が、ある日パートナーと大喧嘩をして離婚を決心することになるかもしれません。もちろん、そんな事態は起こらないかもしれません。どんな出来事、体験もそれ自体では幸福であるとも不幸であるともいえません。結婚すれば必ず幸福になれるのでも、結婚しなければ必ず不幸になるわけでもないということです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

森林基金、初年度で100億ドル確保は「可能」=ブラ

ビジネス

米ヘッジファンドのミレニアム、自社株15%を売却=

ビジネス

為替円安、高い緊張感もって見極め=片山財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中