最新記事

ライフスタイル

「将来のために今は我慢」は間違い!? 哲学者が説く「本当に幸せな人生」のあり方とは

2022年7月11日(月)20時22分
岸見一郎(哲学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

未来がすべてわかっていたら生きる喜びはない

この先起こる出来事が何かわからないということは不安なものですが、もしもこれから起きることのすべてがわかっていれば、生きる喜びすら感じられません。時には不幸のどん底に沈むような出来事が起こるかもしれませんが、それでも今見たようにそれが必ず不幸であるというわけではないのです。

とはいえ、起こった出来事が不幸であるとは限らないというのは、不幸の渦中にある人にいえることではありません。

私は病気になって仕事を失う経験をしましたが、病気になったおかげで学んだことは多々ありました。その意味で、病気もよい経験になったと今はいえますが、他の人に対しては病気をしてよかったとはいえません。

自分でも病気になったことをなかなか受け入れられない時に、見舞いにやってきた人から、ずっと働き詰めだったのだからゆっくり休んだらいいといわれると嬉しくはありません。

亡くなった人の人生をその最期だけで判断してはいけない

さらに深刻なケースになりますが、カウンセリングの場で自ら命を絶った人の家族と話すことがよくありました。私がいつもいうのは、亡くなった人の人生をその最期だけで判断してはいけないということです。

岸見一郎『孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために』たしかに、家族は自殺を止められなかったことを後悔しないわけにはいきません。長く悩んでいたのに力になれなかったということはあります。相談もしてもらえないこともあるでしょうし、相談に乗ったとしても本人の決心を覆すのは困難です。まして突然の死であれば、家族といえども防ぎようがありません。そのような家族に起きた出来事に対してよかったとはいえません。

しかし、そのように亡くなった人が生涯ずっと不幸だったかといえば、そうとはいえないという話はしました。それでも、起きた結果を受け入れるためには長い時間が必要です。

事故や災害に遭った時も同じです。何もかも失うような出来事を経験すれば、それを受け入れられるまでには時間がかかります。そうできるようになる前に当事者ではないまわりの人から、起きた出来事には意味があるというような話をいわれたくはありません。

岸見一郎

哲学者
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。ミリオンセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(以上、古賀史健氏との共著)をはじめ、『困った時のアドラー心理学』『人生を変える勇気』『アドラーをじっくり読む』など著書多数。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中