最新記事

医療

光酸化ストレスから食生活まで。失明を引き起こす目の病気「加齢黄斑変性」の発症要因とは?

2022年2月7日(月)11時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

補体(タンパク質)には多数の種類とそれを調節する多数の因子があり、前にあげた感受性遺伝子「CFH」はそのひとつです。

CFHタンパクは遺伝子によって種類や発現量が決まります。大多数の人は同じ遺伝子を持っていますが、一部の人は異なります。このような個人差を「遺伝子多型」と呼び、それぞれの遺伝子で人口の何%の人が異なる遺伝子を持っているのか、だいたいわかっています。

CFH多型のひとつにCFH Y402Hがあり、この多型を持つ人はAMDになりやすいことが2005年に報告されました。

CFH Y402H多型の人はCFHタンパクの402番目のアミノ酸がチロジン(Tyr)からヒスチジン(His)に変わり、CFHタンパクの機能が劣化しています。そのために炎症を抑えることができず、慢性的な症状を生じるとされます。

つまり、CFHの多型を持つと炎症が起こりやすくなり、他の要因で発症しかけたAMDの病態が加速するということです。

いっぽう、ARMS2タンパクは視細胞内節のミトコンドリア内に存在することがわかっていますが、ARMS2多型の人はこのタンパクがミトコンドリアに存在せず、これがAMDの発症にかかわるのではないかと考えられています。

●喫煙者は発症率が2倍以上

多数の疫学調査で喫煙はAMDの強力な発症要因であることが判明しています。久山町研究では、5年間にAMDを発症する割合は、1日10~19本吸っている人は非喫煙者に比べて発症率が2.21倍になり、1日20本以上吸っている人は3.32倍でした。

わが国で女性より男性のAMD有病率が高い理由のひとつは、男性の高い喫煙率にあると考えられています。

●動脈硬化なども悪化要因となる

高血圧、動脈硬化、脂質代謝異常などの「メタボリックシンドローム」と呼ばれる全身異常はAMDの発症および悪化要因になります。これらは眼の中の血液の流れを阻害して、網膜の酸素不足を引き起こし、また新生血管からの出血を起こしやすくします。

AMD患者は心筋梗塞や脳卒中を発症しやすいことも認められているため、メタボは眼にもカラダにもよくありません。

●食生活が大いに関係あり

前述の高血圧、動脈硬化、脂質代謝異常には食生活が深くかかわっています。

また、網膜には酸化ストレスから視細胞を防御する「黄斑色素」という黄色の色素が存在します。黄斑色素は食事で摂取したカロテノイドからなり、その摂取不足が発症要因になると考えられています。

「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性
 治療と予防 最新マニュアル』
 尾花 明 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルに人質1人の遺体返還、残り1人か ラファ

ビジネス

米の同盟国支援縮小、ドルの地位を脅かす可能性=マン

ワールド

トランプ政権、燃費規制の大幅緩和提案 ガソリン車支

ワールド

ヘグセス長官の民間アプリ使用は問題、「米軍危険に」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中