最新記事

医療

光酸化ストレスから食生活まで。失明を引き起こす目の病気「加齢黄斑変性」の発症要因とは?

2022年2月7日(月)11時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

amdbook-3-20220207chart2.png

『「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル』57ページより

活性酸素には物を酸化する力があります。網膜の視細胞にはドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)のような酸化されやすい不飽和脂肪酸が多く含まれ、これらの不飽和脂肪酸が活性酸素によって酸化され、脂質ラジカル(脂肪が酸化する過程で生成される中間体)ができます。

厄介なのは、いったん脂質ラジカルができると、次々に周囲の脂質が連鎖反応を起こして多量の過酸化脂質ができることです。過酸化脂質は細胞膜や細胞成分を障害するので、視細胞や網膜色素上皮細胞が傷害をうけて変性してしまいます。これがAMDを引き起こす大きな要因です。

これらのことから、AMDの予防には、活性酸素の発生源になるリポフスチンを溜めないことに加え、「酸素から活性酸素になるためのエネルギーの供給源になる光の量を減らせばよいのではないか」と考えられます。

●遺伝は無関係とは言えない

いわゆる遺伝病とは、特定の変異遺伝子を持つことで発症する病気です。ちなみに、この「変異(variant)」という言葉、昨今の新型コロナウイルスに関するニュースでも「デルタ型変異株」などのフレーズを通してよく耳にされると思います。

要するに、それは元来多くの方が持っている遺伝子とは異なるものなのです。変異遺伝子は、親から子に伝えられることが多いとされています。

「優性遺伝」や「劣性遺伝」という言葉はみなさん、ご存じだと思います。簡単にいうと、片親が変異遺伝子を持っているだけで発症するのが優性遺伝、両親とも変異遺伝子を持っているときだけ発症するのが劣性遺伝です。

眼科領域で有名な遺伝病が「網膜色素変性症」です。これまでにこの病気を引き起こす約100種類の遺伝子変異が見つかっていて、日本人では3400人から8000人に1人の患者さんがいるとされます。

遺伝の仕方は変異遺伝子の種類によって異なり、劣性遺伝の場合が多いですが、稀に孤発例といって家系内に病気がない場合もあります。

amdbook-3-20220207chart3.png

『「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル』60ページより

AMDについては、このように発症に直結する変異遺伝子はありませんので、いわゆる遺伝病ではありません。しかし、遺伝とまったく無関係かというとそうではなく、AMDになりやすい人とそうでない人がいます。

実は、AMDに関連する感受性遺伝子というものが複数判明していて、自分がどんな種類の感受性遺伝子を持っているかで、病気になりやすいかどうかが決まるのです。

代表的な感受性遺伝子には、「CFH(Complement Factor H)」、「ARMS2/HTRA1(Age-Related Maculopathy Susceptibility 2/High-Temperature Requirement A-1)」などがあります。

●発症しやすい遺伝子を持つ人とは

「炎症」という言葉をよく耳にすると思います。たとえば、指を切ると傷口は赤く脹れて熱を持ち、痛みを感じます。なぜなら、傷口に白血球がやってきて抗体を出したり、自らがバイ菌を貪食(細胞の中に取り込んでいくこと)したりして菌を殺すとともに、壊れた組織を掃除して組織の修復を促しているからです。

これを「炎症反応」と言います。そして、この反応を補助して免疫系を整えるのが「補体」と呼ばれるタンパク質です。補体が適切に働くことで、炎症はうまくコントロールされて組織が修復されるのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ商工会議所、今年の経済成長ゼロと予想 来年0

ビジネス

日産、通期の純損益予想の開示を再び見送り

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大

ビジネス

訂正-独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中