最新記事

ダイエット

あなたはいくらエクササイズしても痩せない 脂肪燃焼は5%が限界、「運動したら痩せる」は科学的に大間違い

2021年11月23日(火)19時15分
ジェイソン・ファン(医学博士) *PRESIDENT Onlineからの転載

ところが、問題があった。運動する人が増えても、肥満率の減少にはまったく効果がなかったのである。私たちがオールディーズの曲に合わせて踊って汗をかいても、肥満は容赦なく増えていった。

イタリア人の肥満率はトレーニングに励むアメリカ人の3分の1

図表1(※2)を見てほしい。

世界レベルで発生する肥満パンデミック

肥満率の上昇は世界的な傾向だ。最近実施された8カ国を対象にした調査では、年間の運動日数は世界平均で112日だったところ、アメリカ人は最多の135日だった。オランダ人が最も少なく、93日(※3)。どこの国でも、人が運動をする主な目的は体重を減らすことだ。こうして運動をした結果、肥満率の減少につながったかって?

よくぞ聞いてくれた。年間の運動日数が少なかったオランダ人とイタリア人についていえば、ダンベルを使ってトレーニングに励んでいるアメリカ人に比べて、肥満率は3分の1にとどまっている。

米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを見ても、問題は明らかだ。2001年から2011年にかけて、運動量は総じて増えている(※4)。特定の地域にかぎっていえば(ケンタッキー州、バージニア州、フロリダ州、南北カロライナ州)運動量は大幅に増えた。

だが、むごい真実がここにある。運動量の増減にいっさい関係なく、肥満は増えている。運動量を増やしても、肥満は減らなかったのだ。

どうにも解せない結果だ。もっと運動をしなければだめだ、と言う人もいた。逆に、あまり運動をしないほうがいい、と言う人もいた。どっちにしろ、肥満は同じように増えていくのだから。

では、視点を変えて子どもの肥満を減らすのに、運動は有効だろうか? 端的に答えれば、有効ではない。2013年に発表された論文では、3歳から5歳までの子どもの運動量(活動量計を用いて計測された)となぜうまくいかないのだろう?

体重が比較されている(※5)。執筆者は、「運動と肥満の間には何ら関連が見られない」と結論づけた。

1日32キロ歩いて消費するカロリーは「月並み」

なぜうまくいかないのだろう?

摂取カロリーと消費カロリーのバランスが問題であるという理論に基づけば、運動量の減少こそ、肥満が増える主な原因ということになる。

たとえば、かつてはどこに行くにも歩いて行ったのに、いまでは車を使っている。車など、人間の労力を節約する機器が増えたせいで、私たちの運動量は減っており、それが肥満につながったといわれている。テレビ、ゲーム、コンピュータの普及によって、座っている時間も長くなっている。

こうした説は、うまい詐欺師の言葉のように、始めは極めて理論的に聞こえる。だが、問題点がある。「真実ではない」という点だ。

研究者のハーマン・ポンツァーは、いまでも原始的な生活スタイルで暮らしている狩猟採集民族についての研究を行った。タンザニアのハッツァという民族は、食料を採取するために一日に24〜32キロも足で移動する。

彼らが一日に消費するエネルギーは、典型的な会社員よりも、ずいぶん多いだろうとあなたは思うかもしれない。だが、ポンツァーは「ニューヨーク・タイムズ」紙に寄稿した記事のなかで、驚くべき結果を述べている。「これほど体を使っていても、ハッツァ族が一日に燃やすカロリーは、欧米諸国の一般的な成人とほとんど変わらないことがわかった(※6)」

比較的最近の活動率を、肥満が本格的にまん延する以前の1980年代の活動率と比べても、それほど減っているわけではない(※7)。ヨーロッパの北部の諸国では、1980年代から2000年代の半ばまで、運動によるエネルギー消費量が計算され記録されてきた。それによると、驚いたことに、運動量はむしろ1980年代よりも実際は増えていることがわかった。

そこで研究者たちは、さらに一歩進んだ研究を行った。予測される野生哺乳動物のエネルギー消費量を計算したところ、エネルギー消費量は外気温とBMI指数によってほぼ決まることを突き止めた。

それを基に、野生哺乳動物の同類であるピューマ、きつね、カリブー【訳注:北米のトナカイ】など活発に活動する哺乳動物と、2015年の"肥満人間"の身体活動を比べたところ、肥満人間の身体活動量は決して少なくないことがわかったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中首脳、台湾を議論 高市氏「良好な両岸関係が重要

ビジネス

アングル:ドル155円の攻防へ、相次ぐ円安材料とべ

ワールド

中国習主席、APEC首脳会議で多国間貿易体制の保護

ビジネス

9月住宅着工、前年比7.3%減 6カ月連続マイナス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中