最新記事

育児

赤ちゃんは痛みを感じない、と30年前まで考えられていた

2018年4月6日(金)17時58分
アリ・ベノーサ

EMMA KIM-CULTURA/GETTY IMAGES

<小さな頭の中では何が起きている? 行動観察や脳スキャンデータで判明した赤ちゃん脳の6つの不思議。本誌SPECIAL ISSUE「0歳からの教育 発達編」より>

意思伝達力の弱い赤ちゃんの脳について理解することは難しい。何を考え、どう感じているかを本人に聞くことはできないから、行動観察や脳のスキャンデータに頼るしかない。それにもかかわらず、小さな脳の解明は近年、急速に進んでいる。新たな6つの発見を紹介すると......。

1. 大人と同じように痛みを感じる

87年の臨床試験で証明されるまで、多くの専門家が赤ちゃんは痛みを感じないと考えていた。その常識が覆されても、痛みの処理状況は不明だった。

しかし15年、オックスフォード大学の研究チームがfMRI(機能的磁気共鳴映像法)を用いて痛みの刺激に対する脳の反応を観察。それによれば、痛みを加えたときに乳幼児も大人と同じ脳の領域が活発になっていた。チクチク刺すようなかすかな痛みに対しても、その4倍の痛みを与えた大人と同様の反応を示すことが判明。つまり痛みを感じやすいことが分かった。

2. 親の愛には痛みを軽減する効果あり

ニューヨーク大学のチームが行った研究では、子供のラットが痛みを感じたとき数百の遺伝子が発現するのが確認された。だが母親のラットがそばにいるときには、遺伝子の発現は100以下だったという。

この研究は、母親の存在が、苦痛を感じる乳幼児の脳に短期的な影響を及ぼせることを初めて明らかにした。研究チームは長期的効果も検証。すると母親がそばにいる安心感は、幼い発達途上の脳の神経回路を修正する働きがあることが分かった。

3. 夫婦げんかの悪影響

子供の前で争い、怒りの声を上げるのは、脳の発達に影響を及ぼす可能性がある。赤ちゃんは言葉が分からなくても、声のトーンの違いに敏感だ。オレゴン大学の研究では、乳幼児は「眠っているときでさえ、感情的な口調に脳の特定の領域が反応した」。また、争いの多い家の子供ほど、視床下部などストレスと関連する脳の領域が怒りの口調に強く反応した。

4. 思った以上に早くから表情を認識する

スウェーデンの研究チームが人間の顔のアニメを使った実験を行ったところ、赤ちゃんは生後2〜3日から表情の違いを見分けられた。ただし、ごく至近距離の場合だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国船、尖閣諸島海域を通過 海警局が発表

ワールド

インド中銀が輸出業者の救済策発表、米関税で打撃 返

ワールド

シカゴとポートランド派遣の州兵、一部撤退へ=米当局

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中