最新記事
能登半島地震

「輪島復興」に立ち上がる若者たちの声を聞け――過疎高齢化の奥能登で、人を動かし旗振り役を務める勇者たち

Seeds For the Recovery

2024年10月5日(土)18時20分
小暮聡子(本誌記者)

newsweekjp20241005084108-2886784937cd393b0a9cfce0f9ae4d9471be698b.jpg

ゲストハウス黒島のベッドを見せる杉野智行(9月12日)TORU YAGUCHI FOR NEWSWEEK JAPAN


人口260人で65歳以上が75%、30~50歳台がほぼいないというこの集落で、支援を受け身の姿勢で待つだけでは遅い。ボランティアの受け皿は自分でつくるしかない。そう考え、この9月間を走り続けてきた杉野は、住民たちの「雰囲気が変わってきたのは6月か7月頃」だと語る。

3末に水が復旧し一通りのインフラが整い始め、家の片付けをしたり仮設住宅に入ったりすると、住民たちの表情に変化が見られるようになった。「復興という雰囲気に変わっていくのは比較的早かったかもしれない」

一方で、彼自身も半年を過ぎたタイミングで別の心の変化を経験していた。最初は何の迷いもなく、ここに住む人たちが安心して暮らせる環境を取り戻したいと思って始めたはずのボランティア活動だが、杉野はこの頃から自分の中で少し苦しく感じ始めていた。

3月に退職して無収入で活動するなかで、7月頃から被災とは無関係かつ無報酬の作業依頼が来始め、心が疲弊していった。

しかし杉野が、お金の代わりに意図せず得たものもまた大きかった。それは人と人とのつながりだ。全壊したゲストハウス近くに別の建物を提供してくれる人が現れ、3カ月間はボランティアの宿泊場所として使いながら延べ300人以上が改修作業を手伝ってくれた。

その結果、被災前の目標だったゲストハウスの24年夏オープンを達成。今後は能登の復興を支えながら海と山の豊かな暮らしを探求する人々の、ハブになるような宿を目指していく。

思えば、人と人がつながるゲストハウスに憧れて能登移住を決めた理由の1つは、東北での復興支援で「人間対人間のものすごく濃い時間を過ごしたこと」だった。その杉野は今、能登半島地震を通じて志を共にする仲間を得て、画期的なプロジェクトを立案している。

地震で海底が隆起し船が出せなくなった港に桟橋を造り船を出す、海底隆起で出現したビーチでマリンアクティビティー、海藻が減る「磯焼け」の原因となるウニを駆除し商品化する......。

「復興をしなきゃとか、そういう義務感とか使命感で動き続けられるのには限界がある」と、杉野は言う。「東北では数年がかりで町づくりの話をしていた。自分たちがわくわく楽しめないと、復興までもたない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、反ユダヤ主義助長と豪首相を非難 ビ

ビジネス

インタビュー:プライベートデット拡大へ運用会社買収

ワールド

ウクライナのNATO加盟断念、和平交渉に大きく影響

ワールド

米ブラウン大銃撃、当局が20代の重要参考人拘束
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中