最後は「ボールの行方」から目が離せないはず...映画『チャレンジャーズ』が描く「スポーツとエロス」
A Pulse-Pounding Tennis Movie
撮影は『君の名前で』でグァダニーノと手を組んだサヨムプー・ムックディプロームだ。その甘美な映像は、主役トリオの官能性と身体性を際立たせている。『君の名前で』と同様、本作は美しい体や顔を鑑賞してもらいたいという欲望を隠さない。
ゼンデイヤと、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のリフ役で注目されたフェイスト、ドラマ『ザ・クラウン』で英皇太子時代のチャールズを演じたオコナーは、それぞれに魅力的だ。平静で洗練されたゼンデイヤ。優雅でダンサーのようなフェイスト。小汚さが素敵なオコナーの不良っぽい笑顔は、若き日のニコラス・ケイジを思わせる。
男女3人の間を循環する欲望の正体は異性愛か、同性愛か、それともバイセクシュアルなのか。答えを特定することに、グァダニーノは超越的なほど無関心のようだ。
男性2人が争うのは、同じ女性を追い求め続けているからであり、彼らが互いに引かれ合っているからでもある。とはいえ、これは2人の「隠れゲイ」が抑圧してきた性的真実に目覚める物語ではない。
過去の名作映画でも描かれてきたスポーツに宿るエロス
10代当時を振り返る序盤で、タシは2人の少年が互いにキスをするよう仕向け、チェシャ猫のような笑みを浮かべて彼らを見守る。別の映画なら、この先は2人の関係に焦点を当てるだろうが、本作が探ろうとしているのはより間接的で、より倒錯した三角関係だ。
競技と恋愛を両立するため、3人は性的欲望を勝利の原動力に変えなければと感じる。健全とは言えない欲求だ。それは時に逆方向に変化し、破壊的な結果をもたらす。
トップアスリートの日常的な身体活動に織り込まれるエロチシズムは、恋愛とスポーツを結び付けた過去の名作を思い出させる。例えば、野球選手らの三角関係を描いた『さよならゲーム』(1988年)や、女子陸上競技選手同士の恋愛をテーマにした『マイ・ライバル』(82年)だ。
『チャレンジャーズ』は、最も心理的洞察に優れたグァダニーノ作品とは言えないかもしれない。登場人物は時に、個性を持つ生身の人間ではなく、チェスの駒のようにみえる。それでも、グァダニーノが手がけた映画の中で最もペースが速く、最高に楽しめる作品なのはほぼ確実だ。
クライマックスを迎える頃には、フィルズ・タイヤタウン・チャレンジャーの決勝戦が持つ意味は明らか。筆者のようにスポーツに興味のない人でも、観客席のタシと同じく、蛍光グリーンのボールの行方から目が離せないはずだ。
CHALLENGERS
『チャレンジャーズ』
監督/ルカ・グァダニーノ
主演/ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー
日本公開中