雪山に墜落し、死者の遺体を食べて生き延びた人々...凄惨な実話を描いた『雪山の絆』の独創的な「ひねり」
Horrors of Survival
ラグビーの遠征チームを乗せたチャーター機がアンデス山中に墜落。極寒の世界で生き延びた16人が72日後に救出された NETFLIXーSLATE
<墜落事故後に仲間の遺体を食べて生還した男たちの実話に新たなひねりを加えた『雪山の絆』>
出てくる人間が次々に死ぬと分かっている映画を見るのは、何とも奇妙な感覚だ。
フアン・アントニオ・バヨナ監督の新作『雪山の絆』(ネットフリックスで配信中)は1972年にウルグアイの空軍機571便がアンデス山中に墜落した遭難事故を描いた映画だ。実際に起きたこの事故の生存者の名前をすぐに思い出せる人は多くないだろうが、この事故が世間を騒がせた理由はよく知られている。
生還者たちは死者の遺体を食べて生き延びたのだ(同じ事故を扱った93年の映画『生きてこそ』もこの問題をテーマにしている)。
冒頭で観客に紹介される主要人物の多くは、ウルグアイの首都モンテビデオのラグビーチームのメンバーだ。彼らの顔触れを見ながら、観客は登場人物が次々に死ぬホラー映画を見るときのように、予想せずにはいられない。
カメラがある男の表情をじっくり映し出すのは、その男が主要メンバーの1人で、最後まで生き残るからか。それとも彼はもうじき死ぬ運命にあり、ただの「さよなら」が永遠の別れになるという安直な皮肉を観客にさとられるのを承知の上で、その死が少しでも悲しみを誘うよう、カメラは彼の表情を追うのか。
バヨナ監督は前回手がけた実話に基づく惨劇『インポッシブル』で、主役一家に筋書きの「鎧(よろい)」を着せるという罠に陥った。2004年のスマトラ島沖地震に伴う大津波がタイのリゾートを襲ったとき、生き延びたのはイギリス人一家。
彼らは人種と言語だけでなく、カメラが注意を向ける時間の長さでも、津波に巻き込まれて死ぬ「その他大勢」のタイ人とははっきり区別された。そのため一家が助かることは最初から分かっていて、欧米の観客は遠くで起きた惨劇の体験談を聞くような気分で映画に付き合った。
『雪山の絆』の冒頭に登場する人々ははるかに少人数だ。墜落機に搭乗していたのは乗客40人とクルー5人。それでも冒頭の数分間でこれだけの人たちの人物像を伝えるのは不可能だから、必然的に彼らの多く、特に墜落時か最初の極寒の夜に亡くなった17人は「ただの死者」扱いになる。
映画では死者が出るたびに名前と享年が字幕で示されるが、死者の尊厳を守るためのその試みも反復されるうちに形式的なものになる。
確かにこれは有名な実話に基づく映画であり、今年のオスカーでも2部門にノミネートされている。だが、次は誰が凄惨な死を遂げるのかというハラハラ感で観客を引っ張っていく点では、飛行機事故を免れた若者たちが次々に怪死するホラー映画『ファイナル・デスティネーション』の続編もどきと大差ない。