最新記事

ビートルズ

ビートルズ最高の作詞家がジョンではなく、ポールであることを伝えたい

The Marvel That Is McCartney

2021年12月1日(水)17時45分
ジャック・ハミルトン
マッカートニーとレノン

今もなおマッカートニーとレノンが愛されるソングライターなのは2人がタッグを組んで切磋琢磨をしたから BETTMANN-GETTY IMAGES-SLATE

<ジョン・レノンと共に時代を変えたポール・マッカートニーが、全154曲の歌詞を集めた『詩集』で音楽人生を振り返る>

ビートルズの中で一番優れた作詞家はポール・マッカートニーだと主張することに、昔から筆者は偏屈な喜びを感じている。

マッカートニーの歌詞が陳腐、大仰、ナンセンスのそしりを受けているのは、ファンなら誰でも知っている。だが私に言わせればゴリゴリのジョン・レノン派は鼻持ちならない連中だし、ジョージ・ハリスンを推すのは退屈だ。

マッカートニーが実質的に書いた能天気な「ハロー・グッドバイ」とレノンの気取った「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の一方を選べと言われたら、私は迷わず前者を選ぶ。

とはいえ、「ビートルズで一番○○なのは誰か」という議論は基本的にばかげている。大衆文化においてビートルズほど、複数の才能が大きな相乗効果を発揮した例はない。

今なおマッカートニーとレノンが最も愛されるソングライターなのは、2人がタッグを組んだから。切磋琢磨しつつ、「レノン=マッカートニー」の名義で時代を変える名曲の数々を生んだからだ。

11月に出版された『詩集/1956年~現在』(リブライト社刊)を熟読した結果、私はやはりマッカートニーを推したい。『詩集』は960ページに154曲の歌詞を収録し、一曲ごとにマッカートニーがエッセーを寄せた上下2巻の豪華本。写真や落書き、書簡などのお宝も楽しめる。

曲になじみ過ぎてすごさが分からない

歌詞の味わいは、本で読んでも完全には伝わらない。それがたぐいまれな聴覚の持ち主の作品なら、なおさらだ。マッカートニーの歌詞は傑出した音楽的才能のたまもの。曲に完璧になじんでいて、かえってすごさが分からない。

例えば1965年の「夢の人」。「さっき顔を見たんだ/見た時も場所も僕は忘れない/彼女こそが運命の人、2人の出会いを世界に見せたい」とほとばしる歌詞は、やがてハミングに変わる。2人の出会いを世界に見せたい、とは何と美しい心情だろう。

「オール・マイ・ラヴィング」の「目を閉じてよ。キスしてあげる」ほど、ラブソングの幕開けにふさわしい歌詞があるだろうか。

イメージを呼び覚ますのも(「彼女が手を振るたび僕の人生は変わっていく」=「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」)、気の利いた格言を繰り出すのも(「愛には一夜で消えるという不愉快な癖がある」=「君はいずこへ」)、マッカートニーの得意技だ。

60年近く世界有数の名声を保ってきただけあり、マッカートニー(79)はセレブの手本だ。驚くほど人当たりがよく、いつもエネルギッシュで腰が低い。一方で魅力の奥には、警戒心が見て取れる。マッカートニーは自伝を書いたことがなく、自分のイメージを入念に操作してきた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中