最新記事

アート

圧倒的な謎、東京上空に現れた「巨大な顔」の舞台裏──「目[mé]」とはどんなアーティストか?

2021年12月20日(月)10時55分
岩崎香央理 ※Pen Onlineより転載

『たよりない現実、この世界の在りか』 資生堂ギャラリー

pen211220_me8.jpg

photo courtesy of Shiseido photo: Ken KATO

目[mé]として東京で初の個展。地下のギャラリーに足を踏み入れると、そこは既視感のあるシックなホテルの内廊下と客室。内装から備品、宿泊の跡、漂うニュアンスまで、本物のようにつくり込まれた空間をたどるうちに、観客は不思議な仕掛けに気づく。違和感を見つめた先には、反転した世界が存在している。荒神が5歳の頃、寝転がって空を見ていたら、空へ落ちていくような不安を覚え、現実という足元の不確かさを認識したという経験にもとづいたインスタレーション。

『Elemental Detection』 さいたまトリエンナーレ 2016

pen211220_me7.jpg

photo: Natsumi Kinugasa

旧・埼玉県立民俗文化センターの屋外にダイナミックな風景を設置。緑に導かれるように小道のトンネルを抜けていくと、美しい池に出くわす。だが、それは水ではなく鏡のようなテクスチャー。裸足で歩くと、記憶に紐づく水のあり方と目の前の現実が齟齬をきたすよう。林を通って幻の池が開け、体験してまた同じ道を帰るという、一連の動線をアートとして成立させた。マクロな自然の景色とミクロな実体の間に横たわる錯覚は、19年に森美術館で展示された『景体』にも通じる。

『信濃大町実景舎』 北アルプス国際芸術祭2017

pen211220_me9.jpg

鷹狩山の頂の建物に白く有機的な空間をつくり、トンネルの出口のようでもあり、窓のようでもある開口部から、北アルプスの景色を展望する作品。ものを見る手がかりであり、ときに見る対象を意味づけて切り取る「窓」は、目[mé]にとって大切な要素。同年に参加した宮城県石巻市の「リボーンアート・フェスティバル」でも、窓がテーマの『repetition window』を出展。窓から景色を眺める観客、また観客も窓枠に収まる作品として外から眺め返されるといった状況をつくり出した。

『非常にはっきりとわからない』 千葉市美術館

pen211220_me10.jpg

photo: Max Pinckers

目[mé]にとって初の美術館での大規模個展。展覧会本番に通常あるはずのない養生シートと脚立、ベニヤなど資材が組まれた、設営真っただなかの現場感と作業員の動きそのものが、いわば作品。観客は美術館という舞台装置に引き込まれる。同じ展示室が2フロアに分けて設置され、壁にかかる美術品もそっくり同じ。あたかも時空を超えて展示室を行き来する感覚に陥ったり、建物の外で休憩する作業員も作品の一部であるなど、作品とそうでないものの境界が奪われる展示だ。

※当記事は「Pen Online」からの転載記事です。
Penonline_logo200.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中