日本で「食えている画家」は30~50人だけ 完売画家が考える芸術界の問題点

2021年9月2日(木)06時50分
中島健太(洋画家)

また、自分の気持ちに正直になって、感動や感想を言語化することが大切です。

何か物を販売するときは、自分が好きなものなら、感情をこめて人にすすめられます。それによって、買い手の気持ちを動かすことができる。

芸術に多くふれることは、自分の心を見つめていくことでもあります。ある小説家が、よい芸術にふれることは食あたりに似ていると表現していました。

食あたりになったとき、自分の体は自分の意志とは無関係、まるで自分の体ではないようになります。

よい芸術にふれたときもそうです。自分の頭で考えていることとは無関係に、鳥肌が立ったり、涙を流すこともあるかもしれません。

感性は育ちます。というより、育てるものです。

芸術と関係のないビジネスをしている人にも、芸術にふれてほしい。

仕事や趣味にかかわらず、日本の人にもっともっと芸術を気軽に楽しんでほしいと思っています。ですから、本書では芸術に関する素朴な疑問、たとえば、値段のつけ方や公募展の仕組みについても紹介しています。

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「phantom01」M25号、2021年

日本国内のアートマーケットにこだわってきた理由

海外で活躍する日本人アーティストもいます。その中で、僕は日本にこだわってきました。国内で売れて、海外にアプローチする時間がないぐらい忙しくなってしまったということもありますが、それだけではありません。もっと日本人の生活の中に、芸術を浸透させたいという気持ちがあるからです。

日本はGDP世界3位の経済大国で、なおかつ世界的にも特殊な百貨店での芸術品販売マーケットがかなり太く確立されています。その年間の市場規模は、およそ700億円。

百貨店という老若男女問わず入れる大型店で芸術品が買えるのは、世界広しといえども日本ぐらいです。

ほかの国では、ギャラリーに行かなければ買うことができません。

日本は世界的に見て、じつは最も芸術に対するアプローチのハードルが低い国です。

バブルの時代は、日本では絵は掛けるそばから売れていったので、少しお高くとまっていたところがあります。百貨店の美術画廊はだいたい6階や7階にありますが、気がついたら誰も行かなくなってしまいました。

せっかく誰でも行ける場所で芸術品が売られているのだから、もっと日本国内で芸術を広めていきたいと思っています。

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撮影:河内 彩

写実絵画は日本に合う芸術

僕の描きたい作風に、日本が合っていたところもあります。僕の描きたい写実作品は、海外アートマーケット(以下、海外マーケット)では、あまり評価が得られません。海外マーケットにおいて重要なのは、芸術においてどういう新たな発明をするか、だからです。

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