最新記事

サバイバル

無人島にたどり着いた日本人たちがたらふく味わった「牛肉より美味い動物」とは?

2021年9月7日(火)20時25分
椎名 誠(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

魚が釣れなくなると船の残骸で網を作った

島は平均標高2メートルだった。島で一番高い西の草地でそれより少し高い4メートル、というところだった。その上に見張り台をつくり、常時見張りをおいてまわりを航行する船に注意していよう、という意見がまとまり、みんなで見張り台づくりをはじめた。といっても材木は流木ひとつないから砂浜からみんなで砂を運び、砂山を作ろうという根気のいる作戦がはじまった。石油缶などに砂をいれてみんなでひっきりなしに砂を運んだが、やがてアオウミガメの直径1メートルもある甲羅に砂をいれてロープをつけ、みんなで運ぶ、ということを思いついた。

間もなく4メートルほどの文字通りの砂山ができた。もともとの高さと合わせると8メートルになりそのてっぺんに交代で見張りがつく。

見張り役は当番制になったが、2番目に見張りに立ったものから素晴らしい発見があった。

その山の上から見える浜に沢山の流木が流れ着いているのを見つけた、というのだ。大急ぎで行ってみると大小の流木が本当に沢山打ち寄せられている。みるとそれは波によって分解された自分たちの「龍睡丸」のものだった。でも帆桁である長く太い丸太などもあり、すべて役にたつものばかりだ。

早速その帆桁をつかって見張り台を囲むようにヤグラをつくり、海面から12メートル半もある立派な見張り台を作った。視野はぐんと広くなった。しかしヤグラから遠くをいく船を見つけても、先方にこの場所が発見されなければ意味がない、ということになり、そのまわりに魚の骨、カメの甲羅、枯れ草、板切れなどを積み重ね、ウミガメの油を入れた石油缶を常備していつでも火と煙を焚けるようにした。雨に濡れるのをふせぐため、普段はその焚き火の材料の山に帆布をかけておいた。

季節や水温、水流の変化があるのだろう、ある炊事担当から急に魚が釣れなくなった、という報告があった。

「それでは網をつくろう」

魚のことならなんでもくわしい漁業長が言った。みんなで帆布をほぐしてとった糸によりをかけ、板をけずって網すき針をつくり、オモリは流木についていた大きなクギや金物など。たりないところは大きなタカセ貝などを使い、14日間で長さ36メートル、幅2メートルの立派な網ができた。

これを伝馬船に積んで総がかりで網をしかけた。すると網いっぱいに魚がとれ、てんてこまいになった。これからも毎日魚を捕る必要があるから、と当座食べる分量だけ持ち帰りあとは海に逃がした。

海鳥の肉はまずいが卵はオムレツやゆでタマゴに

その頃から島には日ごといろんな種類の海鳥がやってくるようになった。アヒルくらいの大きさのオサ鳥、軍艦鳥、アジサシ、頭の白いウミガラス、大きなアホウドリなどなど。

かれらは群れごとに集まって卵を産んでいた。その接近度合いも2メートル四方ぐらいに60、70も産卵するので海岸は国別に色をわけた地図のようになった。

16人は卵をひろって歩いた。それはゆでタマゴにしたり洗ったシャベルにカメの油をひいて魚肉入りのオムレツにしたりした。その本には書いていないがいろんな鳥のタマゴを食べられるので鳥によって味わいがずいぶんちがっていただろう。軍艦鳥やアホウドリはとても大食いで口から胃まで沢山の魚を呑み込みくわえて海から戻ってくる。

海鳥そのものの肉はあまり食べなかったようだ。

「贅沢を言うようだがアオウミガメの肉を食べているとだいぶ差がついてまずかった」という記述がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中