最新記事

BOOKS

文字に色を感じる「共感覚」の女性はどんな半生を生きてきたのか

2020年12月18日(金)16時25分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<幼稚園では、ハーモニカにシールを貼るときに困った。高校生のとき、先生に「そういう才能」と言われた。そして彼女は今、共感覚者であることを誇りに思っている>

『1は赤い。そして世界は緑と青でできている。』(望月菜南子・著、飛鳥新社)の著者は、幼稚園に通っていた3歳のとき、自分の名前のことで悩んでいたのだそうだ。

「女の子に生まれたのに、どうして男の子みたいな色の名前をつけられたのか」と。


 私の下の名前「ななこ」の「な」は、うぐいす色みたいな渋い緑色。そして、「こ」はくすんだ感じの暗い赤。
 なんで緑色が2つも続く名前なんだろう。
 緑色は男の子の色なのに。
 同じクラスの他の女の子は、赤とかピンクとか黄色みたいなかわいい色の名前の子ばかりなのに、なんで私だけ男の子みたいなかわいくない色の名前なの?(25ページより)

「なんのことやら?」と思われても仕方がないだろう。そもそも著者自身、この時点では「文字に色が見える」自分が他の子たちと違っているとは気付いていなかったというのだから。

それは「共感覚」と呼ばれる感覚だという。

1つの刺激に対し、2つ以上の感覚を感じる知覚様式のこと。というだけで難しそうではあるが、その種類は多種多様でもあるらしい。

よく知られているのは、音に色を感じる「色聴(しきちょう)」や、文字に色を感じる「色字」など。著者の場合は、文字に色を感じる「色字共感覚」という共感覚を持っているそうだ。

ほかにも、音に味を感じる、味に形を感じる、痛みに色を感じるなど珍しい共感覚も多いのだとか。

正直に白状すれば、そういう人がいることを知らなかったし、考えたことすらなかった。とはいえ世の中は広いのだから、十分に納得できる話でもある。だから、共感覚とともに生きる著者のストーリーを非常に興味深く読み進めることができた。


「文字に色が見える」ことによる苦しみは「文字に色が見える」人にしかわからない。
 この感覚を体験したことがある人は少ないため、自分で忠実に訴えなければ他人にこの苦しみを伝えることはできない。(42ページより)

例えば幼稚園で鍵盤ハーモニカを練習する際、先生が一人ひとりの鍵盤の部分に色のついたシールを貼ってくれたという。「ド」には赤、「レ」には黄色、「ミ」には緑、「ファ」にはオレンジ、「ソ」には青、「ラ」にはピンク、「シ」には紫色を。

当然ながら覚えやすいようにとの配慮だったわけだが、著者にとってそれは大問題だった。シールの色と、見えている色が違ったからである。


 私は色聴はないため「ド」という音を聞いても色は感じないが、色字共感覚者であるため「ド」という文字にははっきりと色が見える。普段は「ド」はオレンジと茶色が混ざった色に見えるのに、この作業では「ド」の音符に赤いシールを貼らなくてはいけなかったのだ。
 たまたま見えている色と一致した「レ」だけはよかったが、それ以外はとても大変だった。「ミ」はピンク色に見えるのに緑のシールを貼らなくてはならないし、「ファ」は灰色に見えるのにオレンジ色のシールを貼らなくてはならない。(37〜38ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中