ナスはドイツ語でもNASU? 言葉はモノに名前をつけることから生まれる
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<パン、かるた、ビール。外来語の多くは異国人が使っていた言葉の音をそのまま日本風に発音したものだ。逆に日本語が欧米語にとりいれられるときも同じ。いつの時代でもわたしたちは、名がわからなければ知りたいと思い、なければ名づけようとする>
パン、かるた、ボタン、たばこなどは、16世紀に宣教師を通じてポルトガル語やスペイン語が入ってきて定着した「日本語」だというのはよく知られている。「ビール」はそれよりも少し遅く、18世紀にオランダから日本にもたらされた。そのため、英語やドイツ語(ビア/ビーア)ではなく、オランダ語の「ビール」が定着した。
このような外来語の多くは異国人が使っていた言葉の音をそのまま日本風に発音したものである。それまで自国になかったものは翻訳しようがないので、当然原語のままとりいれることになる。
それはどの国でも同じだ。逆に日本語が欧米語にとりいれられた例としては、「サクラ」や「ゲイシャ」「キモノ」に始まり、「カラオケ」「カラテ」「スシ」そして、近年では「ウマミ」などが挙げられる。
わたしが日本語をドイツに「輸出」した体験
実は半世紀前、わたしも日本語を海外に「輸出」したことがある。1960年代の終わり、ドイツに行ってまもなく、南ドイツにある友人の実家に遊びに行った。人口5000人ほどの小さな、しかし歴史のある町だ。せっかくなので何か日本料理をごちそうしたいと思い、精進揚げを作ることにした(天ぷらにしたかったが、当時のドイツの田舎では海老や魚は手に入りにくかった)。
人参、玉ねぎ、じゃがいも、そしてナスに決めた。しかし、ドイツ語でナスを何というかわからなかったので、友人やその家族に説明したが、さっぱり通じない。そもそも当時のドイツではナスは知られていなかったのだ。
「イタリアではよく食べるけど......」と友人に言うと、「それじゃ、町はずれの八百屋さんに行きましょうよ。あそこなら出稼ぎに来ているイタリア人が大勢近くに住んでるから」と連れて行ってくれた。
小さな店の奥にかごに盛られたナスがあるのが目に入った。案の定、名札はない。うれしくなって、思わず店のおばさんに大きな声で言った。
「あのう、そこのナス(NASU)ください」
「NASU?」おばさんは怪訝そうに、しかしはっきりと繰り返した。
「そう、ナス」わたしが大きくうなずくと、おばさんも大きくうなずいた。
しばらく経ってから再び友人の家に行った際、前回好評だった精進揚げをまた作ろうと、あの時の八百屋さんに出かけた。そこでわたしは目を見張る出来事に遭遇することになる。なんと山盛りのナスのかごに大きく「NASU」と書いた札が立ててあったのだ。
【参考記事】欧米の言語はなぜ繰り返しが多く、くどいのか?