最新記事

インタビュー

六代目神田伯山が松之丞時代に語る 「二ツ目でメディアに出たのは意外と悪くなかった」

2020年2月13日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

現場でやった試行錯誤が、自分の教科書になった。

――その『中村仲蔵』にも顕著ですが、仲蔵の幼少期を冒頭に短くインサートするなど、松之丞さんの演出には映像的なセンスを感じることがあります。

松之丞 東京だといまはあのやり方にしていますけど、これが地方のお客様だと、ああいう演出をやっても理解されないかもしれないんです。なので、地方では『中村仲蔵』の前半はすべて滑稽にしています。まずは笑わせる、という。最近思ったんですけど、お客様に合わせてチューニングを変えることも、芸にとってはかなり大事なことなんですよね。芸人はあまり自らはそういうことを言ったりしませんが、できる人はみんなチューニングを何パターンか用意しているんですよ。僕の場合、11年目にしてようやくそれを実感するようになりました。

――それは、松之丞さんにとっていまチューニングが必要な段階になった、ということなんじゃないでしょうか。

松之丞 これまでも客層に合わせることがなかったわけではないんですよ。ただ、いま思えばすごく粗かった。同じ相撲の話でも、「年配にウケるのは『雷電の初土俵』、若い人にウケるのは『谷風の情け相撲』。今日はどっちをやろうかな」ぐらいのざっくりとした使い分けだったので。最初からそこは教わっておきたかったとも思うんですけど、でも同時に、現場で数やってみて、初めて学べることでもあるんですよね。そうやって自分でつくった教科書も、芸になっていくんだなと思いました。

――松之丞さんの講談について言うと、人物の躍動感にも驚かされます。アクションあり、心理戦あり。特に会話のテンポは際立っていますね。

松之丞 講談って「ト書きの芸」みたいに言われたりもしますが、そういうことだけでもないと思うんです。ト書きだけでお客様にイメージを浮かばせるって、相当うまい人でないと難しいですよ。若いうちはほとんど無理でしょう。お客様にしても、マニア以外は、会話がないと話の筋が入ってこないと思います。なので、こちらとしても、会話でどう惹きつけるかっていうのは考えますね。

――講談の客層については、いまどう見ていますか。

松之丞 講談と落語の垣根はなくなりつつあるかなと思っていますね。嫌な言い方をすれば、落語の持っているパイを、講談のほうに誘導することができたと思います。そうやって講談にも若い客が入ってくる中で、次の段階として、実はずっと悩みの種だったのが、なかなか新弟子が入ってこないという問題でした。ただ、それも解決して、ここ数カ月で5人も入門してきたんですよ。しかも、そのうち20代の男性が3人。ようやくここまで来たぞ、と。これで僕もけっこう肩の荷が下りた感じがします。ここ2、3年、フワフワしてはいますけど、やるべきことはやってきたなっていう。講談の入り口からの流れは作って、入門者も増えたので。あとは奥行きの凄さを先生方が見せてくれるかなと。


●抜粋第2回:松之丞改め六代目神田伯山の活躍まで、講談は消滅寸前だった
●抜粋第3回:爆笑問題・太田光が語る六代目神田伯山「いずれ人間国宝に」「若い子も感動していた」



『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』
 ペンブックス編集部 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

UBS、資本規制対応で全ての選択肢検討 月内に正式

ワールド

IEA「油田・ガス田の生産減が加速」、OPECは報

ワールド

アングル:中国人民銀は早期利下げ回避か、経済減速も

ワールド

貿易収支、8月は2425億円の赤字 対米自動車輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中