最新記事

インタビュー

六代目神田伯山が松之丞時代に語る 「二ツ目でメディアに出たのは意外と悪くなかった」

2020年2月13日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

――そうなんです。そういう考え方もある中、二ツ目の段階でこれだけ注目を浴びている状況についてはどう考えていますか。

松之丞 そこはまったく同じ考えで、早いうちに当然芸を磨いたほうがいいと思うんですけど、ただメディアのほうとしても、真打でもない、僕ぐらいの30代のやつが出てくるほうが意外といいのかも、というのもあるんです。僕が芸を見せた時でも、「面白くないです」っていうリアクションができる状況は悪くないと思うんですよ。実際、『ダウンタウンなう』でも、浜田(雅功)さんが「あまりピンとこねえなぁ」みたいな感じのリアクションでいじってくれましたよね。その上で、「実は僕の後ろにはもっとすごい人たちがいるんですよ」というプレゼンをするのは、講談にとっても非常に効果的だなと思って。なので、二ツ目でメディアに打って出るっていうのは、結果論として、意外と悪くなかったなと。いずれにせよ、タイミングは自分で選べませんからね。そこはもう腹をくくるしかないというのもあります。

嘘でも改悪でもいいから、新しい工夫を見せるべき。

――厳然たる事実として、松之丞さんの存在によって講談というジャンルに注目が集まっているし、こんなに面白いものだったのか! って気づかされた人も多い。すると同時に、なぜこの面白さにこれまで気づけなかったんだろうとも思うんですよね。

松之丞 寄席でも、落語の間に挟まって「トイレタイム」みたいな言われ方をすることもありましたからね。寄席だと10〜15分の持ち時間で爪痕を残さなくてはならないわけですよ。そこでどう演出するかを考えたときに、例えば寛永宮本武蔵伝に『熱湯風呂』という30分ほどのネタがあるんですけど、熱湯に入る前に話を切り上げてしまう先生がいるんです。「さて、このあと武蔵は熱湯風呂に入り、いかがなりますでしょうか? ......が、お時間となってしまいました」って。お客様はその熱湯に入る描写を聞きたいのに、終わってしまう。あるいは、同じく武蔵の『狼退治』でも、狼が出てくる前に終わってしまったりする。それじゃあ、トイレタイムになっても仕方ないですよ。だから、僕はまず30分のネタを寄席用の短い尺に直す作業をしたんです。それは、僕が寄席の前座という状況にいることができたのも大きかった。いっぱい失敗もしましたし、その上で効果的な見せ方みたいなのを模索できる環境でしたから。

――「自分が客だったら」という目線があればこその改良ですね。

松之丞 それって当たり前のことだと思うんですよ。例えば、『中村仲蔵』に出てくる歌舞伎役者の仲蔵は、一生懸命、芝居の工夫をする人なんだと。そういう話をする時に、みんな工夫もなく型通りにやっている。おかしいだろと。そこは自分なりの工夫を、嘘でも改悪でもいいから、「私の仲蔵はこうです」っていうふうに見せるべきじゃないですか。そういうことは客席時代から思ってましたね。まあ、自分でも全部が全部うまくいっているわけではないですけど、その部分は大事にしています。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中