最新記事

日本文化

三菱財閥創始者・岩崎彌太郎が清澄庭園をこだわって造り上げた理由

2019年5月23日(木)19時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

庭の正面から右に歩き始めるとすぐに、水の上を歩く「磯渡り」ために置かれる「飛石(とびいし)」があります。普通「沢渡り」と言いますが、清澄庭園の場合、池の水際に大ぶりの石が敷き詰められ、荒磯を思わせる配置なので「磯渡り」と称されています。磯渡りの中ほどには船着場があり、長方形の仙台石(粘板岩)が二枚、船着石として設置されています。建物前の靴を脱ぐ場所に踏み台のように置かれる沓脱石(くつぬぎいし)には、伊豆川奈石(安山岩)などが使われ、踏み台として乗る前に、思わず立ち止まりそうな美しい色形をしています。その他、山燈籠、層塔(そうとう)、水鉢、石碑、石仏群など石を用いた景物(けいぶつ)がいろいろありますが、この庭園では厳選されたものを効果的に配置していて、散策をより特別なものにしています。

清澄庭園と三菱が辿った運命

二代目として彌太郎の後を継いだのは、17歳下の弟・彌之助でありました。彼は、進歩的知識人であり、社名を「三菱社」として鉱業や造船業を中心に事業の多角化をはかり、三菱財閥をさらに大きく発展させます。それとともに、国内外に誇れる名庭をと意図して、財を投じて清澄庭園をより完成度の高い庭にしていきます。

三代目は、岩崎彌太郎の息子・岩崎久彌です。福沢諭吉の慶應義塾に入り、その後、父が開設した三菱商業学校に転じ、英語、簿記、法律、経済を学びます。アメリカのペンシルバニア大学に5年間留学後、三菱社の副社長に就任します。

久彌の時代に関東大震災が起こり庭園も被災しますが、庭園にたくさんの被災者を迎え入れ、人々を救いました。関東大震災を契機として、清澄庭園は岩崎家から東京都に寄付されます。第二次世界大戦の東京大空襲で建物は焼失しましたが、関東大震災のときと同様、近隣住民の避難場所として多くの人命を救いました。

清澄庭園は、災害や戦争のときの避難場所として新たな役割を担うことになりました。美しい庭園が燃えたり破壊されたりするのは悲しいことですが、人々を救う場所に変わり得ることは、庭の役割として認識しておきたいことだと私は思います。

※第1回:利他の心に立つ稲盛和夫が活用する京都の日本庭園「和輪庵」
※第2回:京都を愛したデヴィッド・ボウイが涙した正伝寺の日本庭園

gardenbook190521inamori-book.jpg
『一流と日本庭園』
 生島あゆみ 著
 CCCメディアハウス

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷主は「

ワールド

UBS資産運用部門、防衛企業向け投資を一部解禁

ワールド

米関税措置の詳細精査し必要な対応取る=加藤財務相

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中