最新記事

日本文化

三菱財閥創始者・岩崎彌太郎が清澄庭園をこだわって造り上げた理由

2019年5月23日(木)19時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

1867年6月9日、長崎で、後藤象二郎と坂本龍馬が、睡蓮船に乗って京都に向かい出航したとき、見送りに出た彌太郎は、「不覚にも数行の涙を流す」と、日記に書き残しています。約5ヶ月後、龍馬は京都で暗殺されます。彌太郎は、志半ばで暗殺された龍馬の遺志をも引き継ぎ、海運業に邁進していくのです。

(中略)

岩崎彌太郎と清澄庭園

清澄庭園は、私の大好きな庭園の一つです。隅田川から水を引いて池を造った、明治期の回遊式林泉庭園です。暑い夏の夕暮れに訪れたとき、清々しい風が吹きわたりなんとも心地よく、立地条件の良さをあらためて感じました。また、あらゆる地方から運ばれてきた名石が、まるで宝石箱のように散りばめられています。石好きにはたまらない庭園です。

この辺りは江戸期において、比較的新しく開拓された場所でした。隅田川の水運や木場の発展などから、江戸中期に急速に成長した場所だそうです。深川八幡を中心に、独特の「イキ」の文化が築き上げられました。特に、深川猟師町が誕生して、「いなせ」な地域社会の発端になったようです。

私が着目した点は、かつてこの地に、豪商・紀伊国屋文左衛門の別荘があったと伝えられていることです。これはただの偶然でしょうか? 紀伊国屋文左衛門は、江戸中期の豪商です。幕府御用達の材木商として巨万の富を得、その豪遊ぶりも有名でしたが、政権が代わると衰退していきました。

私の推測ですが、歌舞伎の題材にもなった江戸時代の商人の成功者・紀伊国屋文左衛門に対して、彌太郎はそれなりの敬意を持っていたのではないでしょうか。だから、この地に自分の庭園を造ろうと思ったのではないでしょうか。

――江戸時代後期には下総国関宿城主・久世大和守(くぜやまとのかみ)の下屋敷でした。明治時代になり、多くの大名屋敷・土地が荒廃する中、岩崎彌太郎は残存する風景と水運の利便さが大規模造園に適することを見て、直ちにこの土地を取得しました。巨岩と老樹の庭に憧れた彌太郎は、名石があると聞けば人を派して日本全国から石を収集し、隅田川から水を引き入れた潮入の大泉水を設け「深川親睦園」として公開しました。施工半ばだった兄の遺志を継ぎ、庭園を完成に導いたのは17歳違いの弟、彌之助でした。彌之助は会社の隆盛にともない、さらに内外に誇れるような名園を意図して改修を行いました。庭園内に豪著な洋館と日本館を新築し、築庭には、京都から茶匠・磯谷宗庸を招いて指揮にあたらせ、庭石と池泉を整えた大規模改修を行い、1891(明治24)年、池を周遊しながら次々と展開する景色を楽しむ回遊式林泉庭園を完成させました。――(清澄庭園パンフレットより)

豊臣秀吉の項にも書きましたが、岩崎彌太郎の場合も、庭造りの完成を待たずに亡くなっています。富を得て43歳で庭を造りはじめ、7年後の50歳でその生涯を終えています。庭園の完成も、弟に託して亡くなっています。権力を掌握した者はどうして晩年に庭を造り始め、完成前に亡くなってしまうのでしょうか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が閣僚刷新検討 イラン戦争が打撃 選挙控

ワールド

商船三井のLPG船がホルムズ海峡を通過 日本関係2

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 5
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 10
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 10
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中