最新記事

BOOKS

難治がんの記者が伝えたい「がんだと分かった」ときの考え方

2019年5月7日(火)17時45分
印南敦史(作家、書評家)

上記からも分かるとおり、病気と向き合いながらも著者にはどこか余裕があるように思える。それどころか、ときにユーモラスな側面さえ見せるのだ。また、以後も悲惨な闘病体験が続くわけではなく、どんなときにも記者としての姿勢を崩さない。


 2016年2月にがんの手術を受けた病院には、大きな桜があった。見舞いにきた先輩記者と並んで写真を撮った。
「これが最後の桜かもしれない」。ならば、これを逆手に、少しでも記者として成長して散りたい、と考えた。(127ページより)

ところで、膵臓がんで逝去した新聞記者が残した書籍と聞けば、壮絶なラストシーンが待っているように思えるかもしれない。しかしそんなことはなく、記者としての体験談を綴ったあと、同じ病で他界した人たちの話題で幕は閉じられる。

登場するのは、力士の千代の富士、安倍晋三首相の父である安倍晋太郎・元外相、ミュージシャンのムッシュかまやつ、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、ジャーナリストの黒田清、チェコの元体操選手ベラ・チャスラフスカと、いずれも膵臓がんで亡くなった人たちだ。


 たとえ治療によって死期を遅らせ、死因を変えることができても、死そのものは避けられない。人間に選べるのは、死に敗れるまでをどう生きるかということだけだ。(217ページより)

この文章を読むにつけ、「強い方だったんだな」と思わずにはいられない。そして自問することになるのだ、「果たして、自分はここまで強く死ねるだろうか」と。

innami190507kakazuni-book.jpg
『書かずに死ねるか――難治がんの記者がそれでも伝えたいこと』
 野上 祐 著
 朝日新聞出版

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

対シリア制裁、EUの追加解除提案の全容判明 復興と

ビジネス

市場のボラティリティー、通貨戦争ではなく貿易戦争を

ビジネス

金融政策は当面現状維持が適当、米関税の影響を懸念=

ワールド

出生地主義制限の大統領令、米最高裁で弁論 地裁命令
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中