最新記事

食育

「まずい給食」も出る時代に、学校で行われる味覚教育とは何か

2017年10月24日(火)17時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

フレンチのシェフも海外から講師として来日(2016年の「味覚の一週間」より) 写真提供:「味覚の一週間」事務局

<今、子供の食環境に「黄信号」が灯っている。しかし、食環境を充実させようにも共働き家庭では限界もあり、「だからこそ学校で食育を」として実施されているのが、味覚の一週間というイベントだ>

「まずい給食」が話題になっている。神奈川県の中学校で、コスト削減のために給食室を閉鎖して外部の業者に委託したところ、大量の食べ残しが発生。テレビやネットで食べ残しの写真と共に大きく報じられた。

異物混入などの問題もあったようだが、この問題の根底には、生徒が食べる頃には給食が冷たくなっていたこと、生徒たちから「おかずがみんな同じ色だった」などの不満が出たように"見た目"も悪かったことがあった。

味覚の世界的権威として知られる味覚研究所(フランス)のジャック・ピュイゼ博士によると、味覚とは「『多数の感覚』が混ざり合ったもの」だ。「嗅覚と味覚はもちろん、温度による感覚も、視覚も、聴覚も関わって」いるという。

味が濃い・薄いなどの味つけだけでなく、食べ物の温度や見た目、そして食べたときの音も含めた複合的なものが味覚というわけだ。したがって、「まずい給食」に対する子供たちの反応は、至極もっともな反応だったと言える。

家庭の代わりに学校で...という主催者の思い

しかし、日本では今、その子供たちを取り巻く食環境に「黄信号」が灯っている。学校や習い事で常に忙しく、ご飯を食べる時間が不規則に。働く女性の増加によって、食事の支度にかつてほど時間を割けなくなっている現状もある。家族で食卓を囲む経験、出来立ての家庭料理を食べる経験が貴重なものとなっているのだ。

「お母さんもお父さんも遅くまで一生懸命働き、仕事で疲れているのに、手づくりの食事をお子さんたちに食べさせてくださいとはあまり言えません」と、「味覚の一週間®」事務局長の瀬古篤子氏は言う。「家庭で食について学ぶ経験が難しくなっているからこそ、代わりに学校でその機会を提供できたらという思いがあります」

2005年に食育基本法が制定された際には、食べることは個人的なことだから国や教育機関が関与すべきではないという意見もあった。しかし、食育への要望はその後、教育現場レベルでも高まり、今では多くの小学校で食育が行われるようになっている。「味覚の一週間」もその1つだ。

2011年に始まった味覚教育のイベントである「味覚の一週間」は、今年で7回目の開催。10月23日から29日までで、全国244校、600クラス、15877人の参加者を予定している。この2年間で参加者は約2倍となり、活動はどんどん広がっている。

そもそも味覚教育とは何だろうか。

1974年、ピュイゼ博士がフランスで実施した「味覚を目覚めさせる授業」が味覚教育の始まりとされる。以来、フランスでは十数万人もの小学生が「味覚を目覚めさせる授業」に参加してきた。彼の開発した「ピュイゼ理論」は味覚教育理論の基本として世界中に広がり、このたび日本でも、著書『子どもの味覚を育てる――親子で学ぶ「ピュイゼ理論」』(石井克枝・田尻泉監修、鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)が発売された。

【参考記事】味覚の95%は鼻で感じる──味覚を育てる「ピュイゼ理論」とは何か

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中