最新記事

BOOKS

時間が足りない現代に、「映画・ドラマ見放題」メディアが登場する意味

2015年11月30日(月)16時01分
印南敦史(書評家、ライター)

 だから「見放題」といわれても、「見る時間がないからなぁ......」とつい消極的になってしまうのである。

 ただし、実はこの「時間がない」という部分にこそ重要なポイントがあるのだろう。なぜなら「足りない時間」をどう利用するかは、私だけではなく、現代人にとっての普遍的な問題であるはずだからだ。

 思い出したのは、80年代のビジネス誌にあった提案記事のこと。「時間のないビジネスマンのためのライフスタイル」みたいなその特集のなかに、「見たい番組はビデオに録画し、(時間短縮のため)早送りでチェックしよう」というようなことが書かれていたのだ。「そこまでするかなぁ」ってな感じで思わず笑ってしまったのだが、そんなことすら記事になってしまうという事実にも、「なかなか解決できないメディアと時間との関係」が表れている気がする。

 その時代から問題になっていたメディアと時間との関係だが、ここへ来て、好きな時間に好きな番組を見ることのできるVOD(ビデオ・オン・デマンド)の登場である。少なくとも録画するなどという行為は不要になるし、ネットで見られるわけだから、自宅のテレビの前に座って見る必要もなくなる。そこに、本書が訴えかける重要なポイントがある。


 ネットフリックスのヘイスティングス氏は「インターネットテレビは、エンターテインメントにおける大きなブレークスルーだ。いまやBBCやHBOなどの世界の各放送局も、既存のテレビからネットテレビへの移行を加速している。テレビの世界がオン・デマンド型に変わっていくのは大きな流れである」と話す。事実その通り、世界の放送事業者は、放送+ネットでの配信、というモデルに流れている。(71ページより)

 私はこうした考え方を、ネットフリックスやその他の映像配信サービスだけではなく、さまざまなメディア全体の利用法にもいえると解釈した。メディアとの関係性自体が激変しているわけで、そう考えれば第4章「音楽でなにが起こったか」でストリーミング・ミュージックについても詳しく検証していることに納得ができる。


 物理的な円盤を店で買う、というかたちがダウンロードに変わることは大きな変化だった。流通が変わるということは、それを聴くための機器の市場も、曲を売るためのマーケティングも変わるということだからだ。だが、現在起きはじめている変化にくらべれば小さい。なにしろいま起きている変化は「所有しない」スタイルが主流になるかもしれない、という変化なのだ。(115ページより)

 これは音楽について書かれた部分だが、映像も含めたすべてのパッケージメディアとの関係性にも同じことがいえるはずだ。つまりは、ネットフリックスに代表される「見放題」メディアとのつきあい方もまた同じだということである。そういう意味では本書は、単に新しいメディアの可能性を提示しただけではないといえる。そこに絡む私たちのライフスタイルの未来について、さまざまな角度から考えるきっかけともなるのである。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『ネットフリックスの時代
 ――配信とスマホがテレビを変える』
 西田宗千佳 著
 講談社現代新書

<この執筆者の過去の人気記事>
日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
イスラム過激派に誘拐された女性ジャーナリストの壮絶な話
SEALDs時代に「情けない思いでいっぱい」と語る全共闘元代表

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、年初のアフリカ歴訪開始 戦略的に重要な東

ワールド

イエメン分離派指導者が逃亡、リヤド行き便に搭乗せず

ワールド

中国、航空機リースや医療でアイルランドとの協力深化

ワールド

中絶禁止は州憲法違反、米ワイオミング州最高裁が無効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 9
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中