最新記事

BOOKS

無宗教のアメリカ人記者がイスラム教に心の平穏を見出すまで

2015年10月19日(月)16時25分
印南敦史(書評家、ライター)

 コーランでは聖母マリアが「マルヤム」として登場し、アクラムはマルヤムのことを「『アッラーのために』自らたいへんな役割を負った」と説明する。そしてイエスは神の子ではなく、だから「十字架にも掛けられておらず、生きたまま天にあげられた」と考えられている。

 挙げていけばきりがないが、こうして著者はアクラムとの交流を通じ、いままで明かされてこなかったイスラムの、そしてコーランの"真実"と直面していく。つまりここに描かれているのは、そのプロセスなのだ。しかもそれらはトピックスとして劇的に、感情的に語られるのではなく、あくまで淡々と、客観的に示されていくことになる。

 とはいえ、宗教についての考え方は人それぞれだし、非常にセンシティブな問題でもある。私もコーランは読んだことがないし、そもそもイスラム教やコーランについて非信者としての立場から完全に理解しようなどということ自体がナンセンスであることも理解している。

 しかし、だからこそ本書は、これまでの無知や偏見について考えなおす余地を読者に与えるだろう。そしてそれは、なんらかの平穏な感情を与えてくれることになるかもしれない。それは、著者にしても同じだということが、終章を読むとわかる。


私は改宗しなかった。しかし、(中略)コーランを勉強したこの一年は、私に数多くの恩寵の時をもたらしてくれた。コーランを読みながら、「諸天と地とその間のものの主にして、諸々の(光の)昇る処の主」(コーラン第三七章五節)の姿を思い浮かべるとき、私は自分という存在の小ささを思い、そのことに慰められた。信者ではなくとも、コーランの授業は私にとって穏やかな入り江のようで、私はそこに日常生活からの避難所を見出した。(398~399ページより)

 これはあくまで個人的な感情だが、「コーランの授業は私にとって穏やかな入り江」というフレーズを目にしたとき、私自身のなかにも"穏やかななにか"が通りすぎたような気がした。とはいえ本書を読了したからといって、イスラム教やコーランを理解できたなどとははなから考えていない。しかし「信者ではなくとも」という部分が強いインパクトを放つ上記の引用部分には、イスラム教、もしかしたらすべての宗教に対して考えるべき大切なポイントが隠れているようにも感じたのだ。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『コーランには本当は何が書かれていたか?』
 カーラ・パワー 著
 秋山淑子 訳
 文藝春秋

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:戦略投資、次期中計で倍増6000億円

ワールド

トランプ氏、イスラエル首相と来週会談 ホワイトハウ

ビジネス

ロビンフッド、EU利用者が米国株を取引できるトーク

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中