悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方
その後ほどなく、いまでは伝説的な存在であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーなど、数人の非主流派の心理学者たちが新しい発見に到達した。後悔は、重要な交渉のみならず、人間の精神そのものへの理解を深める手掛かりになると気づいたのだ。一九九〇年代に入る頃には、研究領域はさらに拡大し、社会心理学、発達心理学、認知心理学の研究者たちも、人が後悔の感情をいだくメカニズムを研究するようになった。
過去七〇年間の研究から、二つのシンプルだが重要な結論を導き出すことができる。それは、以下の二つの点だ。
後悔は、人間を人間たらしめるものである。
後悔は、人間をよりよい人間にするものである。
後悔の名誉を回復したあとは、人々がいだく後悔の内容を掘り下げる。
二〇二〇年、私はアンケート調査の専門家チームの協力を得て、アメリカ人の後悔について史上最大規模の定量調査を実施した。四四八九人の人々がいだいている後悔について調べ、回答者が打ち明けた後悔の分類を試みた。
その一方で、「ワールド後悔サーベイ」というウェブサイトを開設して、世界中の人々から後悔の体験談も募った。一〇五の国から、一万六〇〇〇を超す体験談が寄せられた。私は寄せられた回答を分析し、一〇〇人以上に追加のインタビュー調査をおこなった。
後悔に関する学術研究の大半は、仕事、家庭、健康、恋愛、お金など、人生の分野ごとに後悔を分類している。しかし、このような表層レベルにとどまらず、もっと深く掘り下げると、これらの分野の枠を越えた後悔の深層構造が見えてきた。
ほぼすべての後悔は、深層レベルで四種類のいずれかに分類できる。それは、基盤に関わる後悔、勇気に関わる後悔、道徳に関わる後悔、つながりに関わる後悔である。こうした深層レベルの構造は、二つの調査プロジェクトの結果を分析してはじめて浮かび上がってきたものだ。
そこから、人間の性質について、そしてよりよい人生への道筋について新たな発見を導き出すことができる。
まず、ある種の後悔に関して、後悔を取り消したり、後悔に対する見方を変えたりすることによって、現在の状況を改善する方法を説明する。次に、後悔をきっかけに、未来の行動を改善するためのシンプルな三段階のプロセスを紹介する。
そして、自分が将来いだくかもしれない後悔を予測するテクニックについても論じる。この方法論を実践することにより、意思決定の質を高められる場合があるのだ。
※抜粋第1回:17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
※抜粋第2回:5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?
『The power of regret 振り返るからこそ、前に進める』
ダニエル・ピンク 著
池村千秋・訳
かんき出版
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