最新記事
自己啓発

悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方

2023年12月11日(月)06時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

その後ほどなく、いまでは伝説的な存在であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーなど、数人の非主流派の心理学者たちが新しい発見に到達した。後悔は、重要な交渉のみならず、人間の精神そのものへの理解を深める手掛かりになると気づいたのだ。一九九〇年代に入る頃には、研究領域はさらに拡大し、社会心理学、発達心理学、認知心理学の研究者たちも、人が後悔の感情をいだくメカニズムを研究するようになった。

過去七〇年間の研究から、二つのシンプルだが重要な結論を導き出すことができる。それは、以下の二つの点だ。

後悔は、人間を人間たらしめるものである。

後悔は、人間をよりよい人間にするものである。

後悔の名誉を回復したあとは、人々がいだく後悔の内容を掘り下げる。

二〇二〇年、私はアンケート調査の専門家チームの協力を得て、アメリカ人の後悔について史上最大規模の定量調査を実施した。四四八九人の人々がいだいている後悔について調べ、回答者が打ち明けた後悔の分類を試みた。

その一方で、「ワールド後悔サーベイ」というウェブサイトを開設して、世界中の人々から後悔の体験談も募った。一〇五の国から、一万六〇〇〇を超す体験談が寄せられた。私は寄せられた回答を分析し、一〇〇人以上に追加のインタビュー調査をおこなった。

後悔に関する学術研究の大半は、仕事、家庭、健康、恋愛、お金など、人生の分野ごとに後悔を分類している。しかし、このような表層レベルにとどまらず、もっと深く掘り下げると、これらの分野の枠を越えた後悔の深層構造が見えてきた。

ほぼすべての後悔は、深層レベルで四種類のいずれかに分類できる。それは、基盤に関わる後悔、勇気に関わる後悔、道徳に関わる後悔、つながりに関わる後悔である。こうした深層レベルの構造は、二つの調査プロジェクトの結果を分析してはじめて浮かび上がってきたものだ。

そこから、人間の性質について、そしてよりよい人生への道筋について新たな発見を導き出すことができる。

まず、ある種の後悔に関して、後悔を取り消したり、後悔に対する見方を変えたりすることによって、現在の状況を改善する方法を説明する。次に、後悔をきっかけに、未来の行動を改善するためのシンプルな三段階のプロセスを紹介する。

そして、自分が将来いだくかもしれない後悔を予測するテクニックについても論じる。この方法論を実践することにより、意思決定の質を高められる場合があるのだ。

※抜粋第1回:17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
※抜粋第2回:5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?

regretbook20231206_cover175.jpg
The power of regret 振り返るからこそ、前に進める
 ダニエル・ピンク 著
 池村千秋・訳
 かんき出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中