最新記事
自己啓発

悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方

2023年12月11日(月)06時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

人はいわば感情のポートフォリオをもっている。そのなかには、愛や誇りや畏敬などのポジティブな感情も含まれるし、悲しみや苛立ち、恥などのネガティブな感情も含まれる。私たちは概して、ポジティブな感情の価値を過大評価し、ネガティブな感情の価値を過小評価する。

ほとんどの人は、一般的な助言や自分自身の直感に従い、ポジティブな感情ばかりをいだこうとし、ネガティブな感情を遠ざけようとする。しかし、このような方針で感情に向き合うことは、現代ポートフォリオ理論以前の投資戦略と同様、間違っている。

ポジティブな感情が不可欠であることは言うまでもない。そのような感情がなければ、人はどうやって生きていけばいいかわからなくなる。

ものごとの明るい側面に目を向け、楽しいことを考えて、暗闇のなかに光明を探すことは重要だ。楽観的思考は、肉体の健康とも関係している。また、喜びや感謝や希望などの感情は、私たちの心理的な幸福感を大幅に高めることもわかっている。

私たちは感情のポートフォリオのなかに、たくさんのポジティブな感情をもっておく必要がある。ネガティブな感情より多くのポジティブな感情をもつべきだ。

しかし、ポジティブな感情への投資を増やしすぎると、それはそれでよくない結果を招く。そのバランスを欠けば、学習と成長が妨げられて、自分の能力を開花させられなくなりかねない。

なぜか。ネガティブな感情も人間には不可欠だからだ。その種の感情には、私たちが生き延びていくことを助ける機能がある。

私たちは恐怖心のおかげで、炎上する建物から逃げ出し、蛇を踏まないように慎重に歩く。嫌悪感をいだくからこそ、有毒なものを避け、悪しき振る舞いを躊躇する。怒りの感情ゆえに、人は脅威や挑発に対して警戒心をいだき、正邪を見極める感覚が研ぎ澄まされる。ネガティブな感情が多すぎれば害があることは事実だが、少なすぎてもよくないのだ。

ネガティブな感情をもたない人は、同じ相手に何度も食い物にされたり、蛇に脚を嚙まれたりする。大きな脳をもち、直立二足歩行をする私たち人類は、ネガティブな感情を(ときおり、しかし必要なときは徹底的に)いだく能力をもっていなければ、ここまで生き延びていなかっただろう。

後悔が人生に不可欠な理由

悲しみ、侮蔑、罪悪感......さまざまなネガティブな感情をリストアップしていくと、ある感情が最も強力で最もしばしば見られることに気づく。

その感情とは、後悔である。

本書の狙いは、後悔が人間にとって不可欠な感情であることを改めて示すことにある。そのうえで、この感情がもつさまざまな利点を活用して、意思決定の質を向上させ、職場や学校でのパフォーマンスを改善し、より有意義な人生を生きるための方法を紹介する。

まず、後悔の名誉回復から始めたい。過去数十年の間に蓄積されてきた大量の学術研究を土台に分析を進める。

経済学者とゲーム理論家がこのテーマを研究しはじめたのは、一九五〇年代の冷戦期のことだった。原子爆弾で世界が破滅することが最も後悔すべき事態だった時代である。

展覧会
奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」   鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中