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定年後、人気講師となり海外居住 可能にしたのは「包丁研ぎ」ノウハウだった

2020年6月21日(日)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

定年退職後、そのノウハウを生かして講座を始めたきっかけを、豊住氏は著書の中で以下のように語る。

「定年後、町会のお祭りで家内が飲食の出店を手伝うことになりました。そこで私は調理で使うために持ち寄った包丁をいくつか研いであげたのですが、それがとにかく大好評。切れるようになったという喜びの声が広がり、それをきっかけに、町会の方数人に包丁研ぎを教えることになったのです。定年後も何かわくわくすることがしたいと思っていた私にとって、とても楽しい充実した時間で、今の仕事につながる大事な経験となりました」

誰でも簡単に包丁の刃を研げるシャープナーが一般的となった現代では、「包丁研ぎは教室で習って習得するもの」という認識は薄い。だが、シャープナーを使用して包丁の切れ味が格段に上がったと実感した経験がある人は少ないのではないだろうか。

かといって、包丁の研ぎ方を知りたいと思っても、昭和から包丁研ぎを代々受け継いでいる家庭は少なく、本格的な刃物教室に通おうと思ったら、家庭用包丁の切れ味を上げるのに必要とされる以上の技術を長い期間と数十万円の月謝をかけて習得することになる。

つまり、ありそうでなかった隙間をうまくついたビジネスになっているのだ。

オンライン講座でも「トマトがスッと切れるようになり感激」

現在、新型コロナウイルス感染症があらゆる業界に大きな影響を与えているが、いわゆる講師業も例外ではない。手取り足取り指導することが特に重要な包丁研ぎ講座を続けていくのは、豊住氏にとって難しい選択だった。

しかし、現役会社員時代からどんな状況や課題にも臨機応変に、そして柔軟に対応してきた豊住氏は、多くの工夫を取り入れることで現在もオンラインで講座を開催している。

受講者とのやり取りは、テレビ会議アプリ「ズーム(Zoom)」で行っている。包丁研ぎの力加減を伝えるのが難しく、その点は今後の課題となっているそうだが、一方で遠方からも受講できる(実際に兵庫県からの受講者も)、移動時間や交通費がかからないなど、受講生にとってのメリットは少なくない。

マンツーマンでの講座に切り替えた豊住氏に、オンライン講座で工夫している点を聞いてみた。

1.テキストを事前に送信し、それを受講者に事前にプリントアウトしてもらう。
2.通信画面をテキストに切り替えて説明し、ページごとに質問の有無を確認。
3.研ぎの説明終了後、QRコードで動画を送り、一緒に見る。
4.動画の途中、包丁の握り方など詳細部分を別のカメラで映しながら、お互いに確認する。
5.力の加減は秤で確認。
6.動画を途中で止めて、そこまで実習し、受講者の映像を見ながら確認・指導。
7.最後に質疑応答で、説明はできる限り別置きのカメラ動画で行う。

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