時間を守れないのは性格のせいではなく、脳を仕向ける「技術」を知らないだけ
自分が使った言葉は「検索ワード」となり、脳内で過去の動作の記憶を検索する。その記憶をもとに未来の行動を予測して、行動を組み立てていくのである。実際に行動したときは、予測と現実とのギャップを認知し、そのギャップを埋めて行動し、それをまた記憶していくのだ。このプロセスを繰り返すことにより、脳は最適な行動につくり変えていくのである。
しかし、「いつも」という言葉を使うと、これらのプロセスがなかったことになり、時間を守れなかった記憶だけが残ってしまう。それを検索して行動すれば、また遅刻をすることになるのだ。
そこで菅原氏は、「いつも時間が守れない」という言葉を「遅刻したことがあった」と言い換えることを提案している。言い換えることにより、脳は遅刻したときの行動を検索し、同時に遅刻しなかったときの存在も認識する。そこに行動を変えるチャンスが生まれるというわけだ。
脳内時間のゆがみが「スイーツ店の行列に並ぶ」時間の長さを変える
もしあなたが時間を守ることが苦手だと自覚しているなら、出掛け際などに「気がついたら、あっという間に時間が経っていた」と感じた経験があるのではないだろうか。
このように、時間の感じ方には人によって差がある。さらに、同じ人でも時と場合によって、感じる時間に差が生まれる。それは、なぜなのだろうか。
菅原氏は、その理由を脳が行動選択の基準に時間の長さを使い、同時によりよい選択のために時間の長さをゆがめることで起こると説明する。
本書で例として挙げられているのは、お土産のスイーツを買う場面だ。行列ができる評判のスイーツ店か、並ばずに買えるスイーツ店のどちらを選ぶかという選択である。
この行動選択には、スイーツを買うことで得られる報酬に、並ぶ時間や並ぶことをやめて得られた時間などの「時間コスト」が発生する。スイーツ店に並ぶ時間が長くなるほど、スイーツを買うことで得られる報酬が引き算されていくのだ。ここで脳内時間がゆがめられ、人によって待ち時間の感じ方が変わっていく。
報酬の計算は、振り返って比較する過去の時間の長さに影響を受ける。待つ間に思い出す記憶が多いほど、報酬に対して長時間待つ行動を選択するという。報酬を得るまでの時間を長く感じる時間のゆがみが最小限に抑えられ、脳内時間と時計時間を同じように感じるのだ。
逆に振り返る記憶が少ない人は、脳内時間の流れが速くなる。ゆえに30分も待っているような気がするのに、実際は5分しか経っていないということが起こる。
脳が時間をゆがめるのは、自分にとって本当に価値のあるもの(こと)を、正しく判断するための戦略である。脳内時間の調整は無意識に行われるため、望ましい結果になることもあれば、そうでないこともある。そこで菅原氏は、メタ認知により自分の脳に与える情報量を調整することで、脳内時間を操ることを勧めている。