出口治明「社会的責任を叫びながら、いざ不祥事になると平気で居座る経営者はおかしくありませんか」
――やはり、そこになりますか。
自分の頭で考えて、世間のいろいろな報酬のあり方をチェックすればそう思うはずです。プロ野球ではチームが勝って、観客を呼んで、儲かれば、それは選手のおかげですよ。もちろん監督の采配もありますが、選手がいなければ試合になりません。
スター性があって、優秀な成績を残す選手にはいくら払おうが、観客が集まり、メディアに取り上げられて、チーム全体が潤うわけです。もちろんスターがいてもチームがバラバラで勝てなければ話になりませんが。
会社も同じですよ。そういう社会になっていかなければ、この国の発展はありません。才能がある人にはガンガン才能を発揮してもらって、めちゃくちゃ稼いでもらって、周囲がその恩恵にあずかる方が、はるかに正しい社会のあり方です。いわゆるトリクルダウン仮説ですね。
出る杭を叩いて、足を引っ張って、みんなで貧しくなって、一体誰が得をするのかとは思いませんか。能力のある稼げる人を大事にしてラグビーワールドカップでのように強いOne Teamをつくっていくことが大切です。
――ただ、残念なことに、足を引っ張る方向に向かっていますよね。『得する、徳。』でも指摘されていますが、やたらに、ひがみ根性で他者に攻撃的な人も増えている印象が拭えません。
攻撃的になっているのは、極めてわかりやすい構造です。これはジョン・ルカーチが『歴史学の将来』(みすず書房)で述べていますが、一般に祖国愛は防衛的ですが、祖国愛が劣等感と不義の関係を結ぶと他者に攻撃的なナショナリズムになります。
いま書店に行くと、日本はこんなにも世界中で好かれているが、中国や韓国は世界中で嫌われてるといった類の本が山ほどありますよね。
この状況は大学のクラスに例えたら、異様な光景ですよ。僕はこんなに好かれているけれども、隣に座ってるA君、B君はクラス中から嫌われてると言い出すようなものですから。そんなことを言い出したら、どうなると思いますか。
――「あいつは何だ...?」って話ですよね。
本にそのようなタイトルを付けること自体が、常識的に考えたら、恥ずかしい話ですよ。世界中で恥をかかないで済んでいるのは日本語の壁があるからです。日本は人口が減少しているとはいえ、まだ人口ボリュームがそこそこあるから日本語で国内だけに流通させても商売になる。世界の誰にも読まれないから変な本が出版されてしまう。
第二次世界大戦に敗れて日本人はアイデンティティを失いました。それが戦後、GDP世界2位の経済大国となって、誇りを取り戻したように見えた。経営者の中には、政治は三流だが、経済は一流だと豪語する人もいましたが、そんなわけはないんですよ。政治と経済は車の両輪ですから。
結局、今は経済ではGDPで中国に大きく水をあけられ、産業で見ると世界最先端だったはずのエレクトロニクス産業ですら(韓国の)サムスン電子に負けたわけです。そうすると劣等意識が芽生え、その劣等意識と不義の関係を結んだ愛国心が攻撃的になるわけですね。こうした社会の歪みというのは、もっと論じられなきゃいけないですよね。