最新記事

インタビュー

出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」

2020年3月30日(月)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

――あまり、いろいろ考えないほうがいいわけですね。『得する、徳。』でもあれこれ考えずに利他的に振る舞って評判を高めることが、巡り巡ってプラスになる事例がいくつも紹介されています。ただ、会社員の場合、上司に媚び売ったり、打算的にいろいろしたりした方がよいのかなど余計なことも考えてしまいます。

打算的に、信用を積むなんてできっこないですよ。打算的に考えれば考えるほどうまくいかないのではないでしょうか。

例えば、会社であなたの上司が出世コースに乗っているとしましょう。あなたが一所懸命、その人に近付こうと努力したところで、権力闘争でその上司が敗れたら、むしろ、あなたの努力はマイナスに働きます。権力闘争に敗れれば、その仲間や部下は一掃されますからね。

だから、打算的に、人脈とか信用とかはつくれません。中には結果的にうまくいくこともあるかもしれませんが、確率からしておすすめできませんね。

人間は総じて思ったほど賢くないのです。打算的に行動したところですぐばれてしまいます。だが、悲しいかな、打算に走る人間は「人間が賢くないことを知らない」んですよ。

それは歴史が証明しています。社会主義が失敗したのもそうですよね。人間が賢ければ社会主義、つまり計画経済の方がいいに決まっています。

僕は保守主義者で、エドマンド・バークの思想がベースにありますが、バークはフランス革命を「伝統の破壊」と批判したわけです。「賢くない頭で、自由、平等、友愛なんて考えたところで、そんなもん、うまくいかんぞ」と。実際、うまくいかなかったわけですが。

――人間、基本はアホだと......。

はい。おまけに、人間もマーケットのようなものです。飛ぶ鳥を落とす勢いの人でもいつ値崩れするかわかりません。誰にも未来はわかりませんよ。

ですから、冒頭で述べたタンザニアの人のように、政治家から売春婦まで、幅広くネットワークを持とうとするべきじゃないですかね。誰でもいいから広く、お付き合いする。時には、自分の持ち出しでも相手を助ける。

――そうした、リスクを分散させた、ゆるいネットワークを、どのように人と付き合っていればつくれるのか、多くの人は悩んでいるのかもしれません。何を判断軸にするのかがわからないと。

僕は面白いかどうかだけで決めています。面白い人と、ご飯を食べると楽しいから一緒に食べるし、飲んでるのが楽しいから飲む。面白いと思う人が世界にはたくさんいるので、毎晩食べて飲んでいたら、気が付かないうちに人脈ができていたという結果になったんだと思います。

面白いことが僕にとっては価値が高く、それを突き詰めた結果として人の輪ができたということでしょうか。

――「面白いものが人生の軸になる」というのは、それはもう昔からある軸ですか。

そうです。「人生、面白くなければムダ」というのが僕の考え方です。人間は、いい加減な動物なので、面白い方が楽しいんですよ。脳が活性化するので。

病は気からというのは本当で、病気になったらどうしようとか心配していると本当に病気になります。人生観の問題になるかもしれませんが、僕は人生は絶対面白いほうがいいと。「元気に明るく楽しく面白く」以外には何もないですよ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中