誰でも今すぐ「頭がよい人」になれる、「往復運動」の能力を鍛えれば
「スピード」は、具体化と抽象化をいかに早くできるかということであり、いわゆる「頭の回転が早い」と言われる人は、これに該当する。テレビのコメンテーターのように、振られた話について具体度/抽象度を変えた回答を即座にできる人は、やはり「頭がよい」という印象を与える。
最後の「回数」は、そうした往復運動を何度もくり返すことを言う。頭がよい人は、常に的確な答えを導き出すように見えるが、それは普段から往復運動を重ねることで、抽象的な理論を具体的な実践によって検証しているからだ。つまり、行動もまた「頭のよさ」をつくる重要な一部なのだ。
「上下」ではなく「左右」と意識すれば往復運動しやすい
具体化/抽象化の2方向に、より遠く考えられる人、より早く考えられる人、より何度も考えられる人が、結果的に、人から「頭がよい」と言われるというわけだ。
だが、3つの運動能力すべてをバランスよく上げる必要はない。自分の個性や強みに合わせて、うまく組み合わせればいいのだ。例えば、谷川氏自身は「距離」は得意だが「スピード」はかなり遅いらしい。そこで、スピードの穴を埋めるべく「回数」をこなすことを大切にしているという。
具体化あるいは抽象化という思考そのものも、人によって得手・不得手があるだろう。本書では、それぞれの思考をしやすくするために、自分でできる「魔法の質問」をいくつか紹介しているが、まずは具体化/抽象化をもっと広い意味で捉えられるように、次のような対比を使って説明している。
具体は個別的で、抽象は全体的。具体は短期的で、抽象は長期的。また、具体は実用的で、抽象は本質的。具体が五感的・現実的・一面的である一方、抽象は概念的・精神的・多面的。そして、具体は手段であるゆえ問題解決であり、抽象は目的であることから問題設定となる。
一般的に、具体化と抽象化について語られる際は、上に抽象、下に具体を配した上下関係の図解が用いられることが多い。しかし、谷川氏に言わせれば、具体と抽象はどちらがより重要ということでもなければ、順番があるわけでもない。そこで本書では、上下ではなく、あえて左右に置き換えた関係図が使われている。具体が《左》で、抽象が《右》だ。
「もっと具体化しよう」「抽象的に考えなくては」と言われると、何やら小難しいことをしなくてはいけないような気になる。しかし、この図を用いて「もっと《左》に寄せよう」「今度は《右》方向で考えてみよう」といった具合に、思考を左右に行きつ戻りつさせることを意識すれば、自然と往復運動をしやすくなる。