最新記事

プレゼンテーション

名門MBAケロッグの名物教授、初めてのプレゼンは「ニワトリの洗い方」だった

2019年10月9日(水)19時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

写真はイメージです kali9-iStock.

<以来、5000回以上のプレゼンをこなしてきたという米ノースウェスタン大学のティム・カルキンス教授。教え子たちの苦戦を憂えた彼は、プレゼンの本を書いた>

「ニワトリを洗うのは難しい仕事ではありません」。会場に集まった人たちを前に、私は話した。

「誰にもできます。ニワトリを見本市に出すときには、見栄えが最高に良くなるように体を洗っておくべきです。ニワトリが暴れないように注意しながら、刺激の少ない石鹼で洗い、その後に体を完全に乾かすようにします。風邪をひかないようにです」

◇ ◇ ◇

ニワトリを......洗う? 何の話かと思うだろうが、これは1973年に行われたあるプレゼンの出だしだ。プレゼンテーターはなんと8歳の少年。後にマーケティング戦略の専門家として活躍する、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のティム・カルキンス教授である。

カルキンス教授はMBAの全米トップ5に入る同大学院で最優秀教授賞を2度受賞しており、マーケティング業界では名の知れた名物教授だ。そんな彼が2018年、『How to Wash a Chicken』(ニワトリの洗い方)という不思議な名前のプレゼン本を書いて、高い評価を受けた。米アマゾンでは66のレビューが付き、5点満点で平均4.9点を獲得している。

なぜか。それは優秀な教え子たちが専門分野のマーケティングではなく、お粗末なプレゼンが原因で仕事の成果を挙げられていないことを憂いたからである。

では、あの「ニワトリの洗い方」プレゼン以来、5000回以上のプレゼンをこなしてきたというカルキンス教授は、どんなプレゼン理論を伝承してくれるのか。そもそも、カルキンス少年のプレゼンはどんな結末に終わったのか。

このたび刊行された邦訳版『ニワトリをどう洗うか? 実践・最強のプレゼンテーション理論』(CCCメディアハウス)より抜粋掲載する。

◇ ◇ ◇

1973年3月の冷え込んだ日だった。私は8歳で、初めて正式なプレゼンテーションをした。青少年のために活動する農業関連の組織「4Hクラブ」のコンテストだった。

審査員たちが真剣に耳を傾けていた。それぞれのプレゼンについて、構成や話し方などを基準に評価する。全員のプレゼンが終わった後、審査員たちはそれぞれの参加者に点数を伝え、アドバイスもする。良かったところは? もっと良くできた部分は?

最高クラスのプレゼンをした参加者には青いリボン、平均的な水準であれば赤いリボン、それ以下だと白いリボンが贈られる。

私は自分で作った図を指し示しながら、ニワトリの洗い方を詳しく説明した。その説明が一通り終わったところで、私はデスクの後ろに置いていた大きなプラスチックの箱を取り出した。

「では、実際にやってみます」。私は箱の蓋を開けて手を入れた。すると、元気のいい白色レグホン種のニワトリは、私の手が届かない箱の奥へ逃げた。私は箱に頭を突っ込んで手を伸ばした。ところが、体に触っただけで捕まえられない。ニワトリは箱の奥で右往左往しはじめた。何事かと驚いているのは明らかだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中