日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません
MUCH TOO SIMPLE
イラスト内のセリフ(*1)(*2)の解説は本文の最後に記載 ILLUSTRATION BY TAKUYA NANGO FOR NEWSWEEK JAPAN
<日本で人気の簡易版英語は、世界の現場で役立たず。「品格のある大人の英語」が不可欠な時代がやって来た。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは?>
※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。
必要な単語は1500語のみ、複雑な時制や受動態は避け、短くシンプルな文で押し通す、比喩的表現や慣用句はご法度――そんなルールを掲げ、21世紀の国際コミュニケーションの新基準と期待を集めた新種の英語があった。IBM出身のフランス人実業家ジャンポール・ネリエールが提唱した「グロービッシュ」だ。
グローバルとイングリッシュを掛け合わせた造語であるこの簡易版英語は、グローバルビジネスの最前線で苦労する非ネイティブ話者の救世主ともてはやされ、2010年頃に世界的なブームを巻き起こした。
「通じればOK」のグロービッシュが国際ビジネスの共通語になれば、難解な構文やネイティブ流の発音を必死で学ぶ必要はなくなり、英語の壁は消え去るはず──。
だが、そんな未来は訪れなかった。「それ以前のあらゆる簡易版英語の試みと同じくグロービッシュは機能しなかった」と、イギリスの著名な言語学者デービッド・クリスタルは言う。単純な語彙や文法で十分という考え方は「日常会話で使われる表現を過小評価している。ビジネスコミュニケーションに至っては話にならない」。
残念なことに、消え去るはずだった英語の壁はこの10年でむしろ一段と高くなった。新興国も巻き込んだ経済のグローバル化が加速し、共通語としての英語のニーズと、求められる英語力の水準は高まる一方だ。
世界最大級の留学・語学教育企業イー・エフ・エデュケーション・ファーストが毎年行っている英語力比較調査では、世界全体の英語力が上昇傾向にあることが明確に示されている。
2018年には非英語圏の88カ国・地域のうち、英語力が5段階のうち一番上の「非常に高い」とされた国が過去最高の12カ国に(日本は下から2番目の「低い」)。業種間の英語力の差も縮小しており、あらゆる業種で英語ニーズが高まっていることが分かる。
「通じればOK」は高リスク
各国の英語教育業界は、こうした流れに後れを取るまいとスキルアップに励むビジネスパーソンで大盛況だ。ただし彼らのゴールは、格調高いネイティブ英語を完璧に操ることではない。
今や世界の英語話者のうちネイティブはわずか2割ほど。国際ビジネスの現場でも大多数はアジアや欧州、中南米などで生まれ育った非ネイティブだ。そこでの共通語はグロービッシュのようなブロークンな英語と比べればはるかに高度で洗練されているが、一方でネイティブ英語そのものでもない。
発音に多少の癖があっても、相手への敬意や社会常識がにじみ出る、品格のある英語。完璧な言い回しばかりではないが、その道のプロフェッショナルとして顧客の信頼を勝ち取り、交渉をまとめられる英語。