最新記事

教育

社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育

2019年2月28日(木)11時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

大学教授の粗製濫造事情とその原因を考える

それでは、「誰にでも簡単になれるものではない」はずの大学教授の人数はどうか。本稿執筆時点で最新のデータとなる2011年度の大学教員数は17万6000人余りとなっている。1950年ではわずか1万人弱であったことを考えると、その急増ぶりに驚かされる。

【図表1 大学教員数と大学・短大進学率の関係】
matsuno190228-chart1.png
(出所:『学校基本調査報告書』各年度の数値を筆者がグラフ化)


この大学教員の急増の背景は下記3点にまとめられる。

(1)高度経済成長と「一億総中流意識」が生み出した大学進学者の急増
(2)大学進学者の急増によって起こった新設大学の急増
(3)大学数の急増に伴う大学教員数の急増

戦後の高度経済成長を背景に、わが国の生活水準も向上した。その結果、「国民生活に関する世論調査」において「自分の生活水準が中の中だと思う」と回答した者が1962年から今日に至るまで5割以上(『国民生活に関する世論調査』各年度)であるという事実が示すように、「一億総中流意識」が生まれたのである。

言い換えればこれは「一億総横並び意識」であり、周りの誰かがやっていることは、自分もやらなければならないという考え方を生み出す。その結果、「まわりが皆大学へ行くから自分も行く」という理由で大学に進学する者が増えたのである。

大学進学者の急増を支えた経済的な理由が生活水準の向上であるとすれば、心理的な理由は「一億総中流意識」であると言えよう。「図表1」にあるように、わが国の大学進学率は1950~1960年代は15%前後であったが、1970年代半ばにかけて急上昇し、1993年には40%を突破、2005年以降はついに50%を越え、2011年時点では56.7%にまで達している。その後も50%前後で推移しているように、大学はかつてのように、エリ-ト層を生み出すのではなく、超大衆化の時代に入ったといっても過言ではないだろう。

米国の教育社会学者のマーチン=トロウによれば進学率が50%以上になった高等教育機関は「ユニバーサル段階」にあるとされ、誰でもアクセスできる存在として、学問の探究以外にも多様なサービスを提供することが求められる(マーチン=トロウ[1975=1976:63])。

大学進学者が増えれば、その「需要」に応えるため大学数も増加する。高度経済成長期の1960年から1970年にかけては、わずか10年で約130もの大学が新設されている。2010年時点ではわが国には778もの大学が存在する。戦後まもない1950年には201大学であったことを考えると、「最高学府」が4倍近くにまで増えたことになる(文部科学省[2011:401])。

このような大学数の急増という「需要」に応えるため、生え抜きのアカデミック教授だけでなく、学外の社会人、すなわち、民間企業やマスコミ関係出身者、公務員などが「社会人教授」として採用されるケースが増加することとなったのである。

【図表 2 大学・短大数の変化】
matsuno190228-chart2.png
(出所:『学校基本調査報告書』各年度の数値を筆者がグラフ化)
今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中