最新記事

教育

社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育

2019年2月28日(木)11時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

大学教授になるための5要件と欧米の大学教授資格

わが国の大学に関する資格や規制は、文部科学省が「大学設置基準」によって定めている。その中には「教授の資格」という項目がある。すなわち、これがわが国における「大学教授の資格」の法的要件に相当するものと言えよう。


大学設置基準
(教授の資格)
第十四条 教授となることのできる者は、次の各号のいずれかに該当し、かつ、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。
一 博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者
二 研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者
三 大学において教授、助教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者
四 芸術、体育等については、特殊な技能に秀でていると認められる者
五 専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者
(文部省高等教育局企画課内高等教育研究会(1998)

ここでは「次の各号のいずれかに該当し」とある通り、5つの基準のうち1つでも満たせば大学教授の資格があるとされている。第一号で示されている「博士の学位」はいわば任意条件の1つに過ぎないことになる。

特に第五号は解釈によって様々な職業的能力や社会経験を「大学教授の資格」として認める余地が生まれる。事実、この第五号が追加されたことにより、博士号を持たない社会人教授の大量採用が可能となったのである(この点の詳細は後述する)。

これが「大学教授は誰でもなれる」という誤った考えが生まれた原因の1つであると言えよう。

大学の起源は中世ヨーロッパの学問ギルドに遡り、そこでは学生は「徒弟」、教師は「親方」そして、学位(博士号)は一人前の職人としての「資格証明書」とされている(天野[2009:11-12])。

その原型は今日にも引き継がれており、例えばドイツでは、博士号を取り、さらにその後「大学教授資格試験(ハビリタツィオン)」に合格しなければ、大学教授になることができない。一方、フランスではまず全国大学審議会による資格審査に合格し、その後厳しい公募競争を勝ち抜かなければ大学教授になることができない。

アメリカも徹底した実力主義を採用しており、研究論文や出版物、受賞実績、政府補助金の獲得実績などが評価対象となる。

すなわち、客観的な評価基準が必須であり、博士号の取得はその大前提と言えよう(松野[2010:236])。大学教授とは、本来「誰でもなれる」ものではないのである。

日本の歴史においても、大学教授は一目置かれる存在であった。明治維新後の富国強兵政策のもと、大学は「国家のための大学」であることが求められ、帝国大学は国家による高級官僚養成の場であり、その帝国大学の教員もまた官僚的性格を帯びたものであった(山野井編[2007:25])。大学教授は自律的でアカデミックな専門エリートという位置づけがなされていた。

このように大学教授とは社会的地位が高く、誰でも簡単になれるものではない。そしてその地位にふさわしい社会的役割――大学という「最高学府」において高度な専門的知識を通じて研究活動を行い、その研究成果をもって社会に貢献すること――が求められるのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ロ・ウクライナの三者協議、初日終了 ドンバス地方

ワールド

中国、1月にロシア産原油輸入量拡大か インドとトル

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円で急落、正午過ぎから一時2

ワールド

アフガン作戦巡るトランプ氏発言に反発 欧州同盟国、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 10
    湿疹がずっと直らなかった女性、病院で告げられた「…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中