社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育
YurolaitsAlbert-iStock.
<大学教員の数は1950年の1万人弱から17万人以上に急増。社会人教員を増やす政策がとられてきたが、大学と大学教授の本当の価値は「大学氷河期時代」のこれから問われることになる>
かつて、日本が近代国家をめざしていた明治維新から戦前の昭和20年頃までは、「末は博士か、大臣か」といわれたように、大学教授は立身出世の目標、社会から尊敬される地位の職業としてみられてきた。
戦後70数年が経過し、大学の専任教員の数が18万人に達した今日でも、大学教授は社会的地位の高い、あこがれの職業となっている(注:明治19年に東京大学が「帝国大学令」で帝国大学に名称変更になった時には、専任教員数は106人であった)。
昨年2月の「日本の大学教授は高額所得者か、一般サラリーマン並みか?」ですでに述べたように、その理由には、
(1)年収が相対的に高いこと(大手私立大学の50歳の教授の場合、1400万~1500万円程度)
(2)定年が一般のサラリーマンよりも長く、65~70歳まで高い報酬で仕事ができること
(3)社会的に尊敬される職業であること
などがあげられる。
しかしながら、1985年の大学設置基準において大学教員資格が緩和され、「実務家教員」枠が認められるようになって以来、社会経験のある実務家教員が増え、中央省庁の役人、メディア関係者、企業関係者などが容易に大学教員になることができるようになったのである。
こうした背景のもとに、新設私立大学の増加に伴い、「実務家教員」(筆者のいう、「社会人教員」)が急増しはじめた。この背景には、(1)社会人教員を登用すれば、大学の就職活動が有利になるとともに、(2)メディアに登場する有名な人たちを大学教員にすれば対外的なPRになり、受験生が増える、という大学側の経営上の理由があることが窺える。
これに拍車をかけたのが、(1)一昨年、55年ぶりに文部科学省が学校教育法を改正し、専門職大学・専門職短期大学の設置と両大学における専門職学科の設置を認めたことと、(2)そうした専門職大学で教える社会人教員を養成する「実務家教員養成プログラム」を大学の課程として設置すれば補助金(予算提示段階で、約19億円とされている)を出すように政策措置をとったことである。
具体的には、文部科学省が昨年5月、実務家教員が大学の教壇に立ちやすい環境の整備のために、大学で教える力を身につけるための教育プログラムを全国の大学で受講できるような態勢づくりを検討していることを発表した(読売新聞2018年5月28日朝刊)。
こうした実学教育と実学教員の重視は産学共同路線を推進するものであるが、企業・行政等の関係者が社会経験をもとに大学で教えることをさらに促進していくことになった。欧米の大学では、大学教員になるためには、学位(博士号)取得と大学での教育・研究上の業績が必須要件であり、日本の場合はきわめて特殊で、大学教員採用のガラパゴス現象といっていいだろう。
これまで、日本の大学は大学院の博士課程を修了して大学教員になるという「アカデミック型の教員」が大半であったが、1990年代から、実学科目に対しては、十分な社会経験のある社会人を大学教員、すなわち、「社会人型の教員」として採用することを文部科学省は奨励してきた(『大学教授の資格』松野 弘、NTT出版)。
社会人であっても、専門性の高い社会経験とそれなりの専門知識があれば大学教員になれるという門戸を広げたのである。この数年の文部科学省の発表はそうした政策をさらに推進するもので、サラリーマンにとっては、大学教員への道がより近づいてきたといえるだろう。
では次に、サラリーマンが大学教員(教授・准教授・専任講師等)になるための基礎知識・方法を紹介することにしよう。