最新記事

教育

社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育

2019年2月28日(木)11時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

YurolaitsAlbert-iStock.

<大学教員の数は1950年の1万人弱から17万人以上に急増。社会人教員を増やす政策がとられてきたが、大学と大学教授の本当の価値は「大学氷河期時代」のこれから問われることになる>

かつて、日本が近代国家をめざしていた明治維新から戦前の昭和20年頃までは、「末は博士か、大臣か」といわれたように、大学教授は立身出世の目標、社会から尊敬される地位の職業としてみられてきた。

戦後70数年が経過し、大学の専任教員の数が18万人に達した今日でも、大学教授は社会的地位の高い、あこがれの職業となっている(注:明治19年に東京大学が「帝国大学令」で帝国大学に名称変更になった時には、専任教員数は106人であった)。

昨年2月の「日本の大学教授は高額所得者か、一般サラリーマン並みか?」ですでに述べたように、その理由には、

(1)年収が相対的に高いこと(大手私立大学の50歳の教授の場合、1400万~1500万円程度)
(2)定年が一般のサラリーマンよりも長く、65~70歳まで高い報酬で仕事ができること
(3)社会的に尊敬される職業であること

などがあげられる。

しかしながら、1985年の大学設置基準において大学教員資格が緩和され、「実務家教員」枠が認められるようになって以来、社会経験のある実務家教員が増え、中央省庁の役人、メディア関係者、企業関係者などが容易に大学教員になることができるようになったのである。

こうした背景のもとに、新設私立大学の増加に伴い、「実務家教員」(筆者のいう、「社会人教員」)が急増しはじめた。この背景には、(1)社会人教員を登用すれば、大学の就職活動が有利になるとともに、(2)メディアに登場する有名な人たちを大学教員にすれば対外的なPRになり、受験生が増える、という大学側の経営上の理由があることが窺える。

これに拍車をかけたのが、(1)一昨年、55年ぶりに文部科学省が学校教育法を改正し、専門職大学・専門職短期大学の設置と両大学における専門職学科の設置を認めたことと、(2)そうした専門職大学で教える社会人教員を養成する「実務家教員養成プログラム」を大学の課程として設置すれば補助金(予算提示段階で、約19億円とされている)を出すように政策措置をとったことである。

具体的には、文部科学省が昨年5月、実務家教員が大学の教壇に立ちやすい環境の整備のために、大学で教える力を身につけるための教育プログラムを全国の大学で受講できるような態勢づくりを検討していることを発表した(読売新聞2018年5月28日朝刊)。

こうした実学教育と実学教員の重視は産学共同路線を推進するものであるが、企業・行政等の関係者が社会経験をもとに大学で教えることをさらに促進していくことになった。欧米の大学では、大学教員になるためには、学位(博士号)取得と大学での教育・研究上の業績が必須要件であり、日本の場合はきわめて特殊で、大学教員採用のガラパゴス現象といっていいだろう。

これまで、日本の大学は大学院の博士課程を修了して大学教員になるという「アカデミック型の教員」が大半であったが、1990年代から、実学科目に対しては、十分な社会経験のある社会人を大学教員、すなわち、「社会人型の教員」として採用することを文部科学省は奨励してきた(『大学教授の資格』松野 弘、NTT出版)。

社会人であっても、専門性の高い社会経験とそれなりの専門知識があれば大学教員になれるという門戸を広げたのである。この数年の文部科学省の発表はそうした政策をさらに推進するもので、サラリーマンにとっては、大学教員への道がより近づいてきたといえるだろう。

では次に、サラリーマンが大学教員(教授・准教授・専任講師等)になるための基礎知識・方法を紹介することにしよう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中