最新記事

教育

社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育

2019年2月28日(木)11時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

「需要と供給」の原理だけが理由では、大学の崩壊を招く

このような事情の中で、社会人が大学教授として採用されるようになった。

前述したように、「大学設置基準」に挙げられる「教授の資格」5項目のうちの1つは「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者」とされており、必ずしもアカデミックな要素が求められていない。

この項目(第五号)は、1985年の大学設置基準改正により新たに付け加えられたものであり、その目的は、社会人が大学教授になることを容易にするためであったからである。後に、大学審議会自らがこの第五号の追加について「社会人を大学の教授や助教授に採用することが容易になった(大学審議会[1991:221])」と自賛していることからも明らかである。

続く1991年の「大学設置基準の大綱化」により一般教育科目や教養課程の縮小や廃止の傾向が強まり、一方で専門教育科目が強化されてゆく。この専門教育科目の強化は大学の実学化傾向を促し、学外で社会人経験を積んだ社会人教授の採用に拍車をかけることになったのである(出典:松野[2010:132])。

社会人教授をはじめとした大学教授の数が急増した背景として「進学者数の増加」とそれに伴う「大学数増加」という「需要」があったことを述べてきた。しかしこのような「需要」によって大学教授の数が増えることについては、より深い考察が必要であろう。

もちろん、どのような市場分野においても「需要と供給」の原理は存在し、それは大学をはじめとする高等教育機関においても例外ではない。しかし「最高学府」とそれを構成する研究者であり教育者である「大学教授」が「不足している」という理由だけで供給されたとすれば、それは大学の質の低下を招き、大学教授の粗製濫造という誹りを免れないであろう。

事実、大学と大学教授の本当の価値は「大学氷河期時代」に問われることになった。18歳人口は1992年をピークに減少に転じ、受験者数も減少傾向に入る。しかし大学数は増加を続けたため、選り好みしなければ誰でも大学に入れる「大学全入時代」が到来したと言われるようになった。

しかし詳細に見ると、国公立大学が微増であったのに対し、私立大学・私立短大の著しい急増が目立つ。従って「大学全入時代」に伴う入学定員割れや大学経営危機も、目下のところ私立大学で深刻な問題となっている。すでに私立大学の約4割、私立短大の約6割が定員割れを起こしている(出典:松野[2010:113])。

受験料収入や学費収入は大学を経営するための重要な財源である。そのため経営危機に見舞われた一部の私立大学では「受験生集め」に奔走している。より多くの受験生を集めるために、受験科目数を削減し、「一芸一能入試」やAO(アドミッション・オフィス)、さまざまな推薦入試を行って、入学者の確保に必死である。

そのイベントで特徴的なのは、一部の私立大学にみられるように、年に10回程度のオープンキャンパスを開催して、志願者を大学に集めようとしていることだ。大手の有名私立大学はせいぜい、2~3回程度の開催だ。

有名女性タレントやスポーツ選手等を入学させる「イメージ戦略」もしばしば耳にする。また、「就職に強い大学」を謳う大学も多くみられる。学生に対する就職対策に注力して就職率を上げることで、受験生に盛んにPRしようというものである。

その就職対策の「即戦力」として社会人教員が招聘される機会が年々増加傾向にあるというわけだ。特にそれが著名人であった場合には、「大学の広告塔」の役割も果たせるため一石二鳥ということになる。

しかし、大学が受験生や学生にPRすべきものは本来このようなものではなく、学生の知的好奇心を刺激し、知を探求する喜びを教授し、人生をいきるための「知」の教養を伝授する「最高学府」としての姿であるべきである。


『講座 社会人教授入門――方法と戦略』
 松野 弘 著
 ミネルヴァ書房

[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『「企業と社会」論とは何か』『講座 社会人教授入門』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

与党消費減税案、即効性なく物価高騰対策にならない=

ワールド

インドネシア大統領、おいを中銀副総裁候補に指名 独

ワールド

原油先物は上昇、中国GDPを好感 グリーンランド問

ビジネス

訪日客、25年は約4270万人で過去最多 12月の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中