最新記事

対談

保育園を変えれば、「AI×人口減少」の未来を乗り越えられる!?

2018年5月17日(木)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

加谷 確かに日本の文化圏では、論理と感情とルール・掟が渾然一体となっていて、事実を切り分けて「こうなので、こうしましょう」と論理だけで表現することがほとんどありませんよね。そうやって事実だけを正確に伝える訓練を、子供のうちに受ける機会がないということでしょうか。

これまではそれでよかったのかもしれませんが、今は生まれてしばらく海外で育つ子供や、親の母語が日本語ではない子供も増えています。「日本語ができない子もいる」という前提で教え方を見直す時期に差しかかっているのかもしれないですね。

新井 かつて、子供は大勢の大人に囲まれて育っていました。今では「ワンオペ育児」なんて言われるように、20~30年前とは全然違う状況で子育てが行われています。大人との関わりが少ないと語彙は増えませんし、ひとりの大人のしゃべり方しか聞いていないと聞き取る力が育ちません。

ですから今後は、子供にどれくらい語彙があるか、どれくらい説明できるか、といった能力を測る必要があるかもしれません。その上でアメリカなどのように、言語を扱うレベルに応じてクラス分けをした上で、子供の言語獲得のニーズに合わせて言語教育することが必要になってくる気がしますね。

booktalk180511-3.jpg

新井紀子(あらい・のりこ)/国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。 専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など Newsweek Japan

現代の子供に足りないのは「渇望感」

加谷 教育の問題はあるにしても、どうして認識力に差があるのかという部分に興味があるんですが、読めない人は文字を図形としてしか見られないんですか?

新井 と言うよりも、文章からイメージを思い浮かべられないんだと思います。文字と図の相互リンクができない。文章だけなら、何とか穴埋めして理解しようとするんですが、それをイメージと結びつけられないというのは、まさにAI的な理解の仕方です。

あるいは、概念と現実世界が結びつかないというのもあります。例えば「マルコフ過程」(*編注:未来の事象が起こる確率は、過去とは関係なく、現在の状態によってのみ決定される)について教わったときに、「それって日常生活で言うところの天気予報だよね」とすぐに還元できないんです。

よく「基礎と応用の谷」とか「応用と実用の谷」などと言われますけど、ひとつのことはできるのに、それを別のことに応用できないわけです。マルコフ過程を覚えただけで終わってしまって、「これって予測変換にも使えるな」「じゃあ、あれにも使える」......という発想が浮かびません。

加谷 つまり、非常に狭い問題解決しかできないことになりますよね。そうなると、単に文章を読めないという問題にとどまらず、あらゆる技術系の分野や、エリート層と呼ばれる人たちにも共通の課題になってきますね。

結局のところ、文章をちゃんと読ませて、内容を理解させて、自分もそれに倣って書くというトレーニングを「気をつけて」やらせることが、読解力を伸ばすには一番効果的なんですか?

新井 ただ気をつけるだけじゃなくて、文字とイメージとを結びつけられるようになるには、切実な体験に基づいたリアリティが必要だと思います。

一般論として、渇望感が適度にあるほうが伸びしろが大きい、と私は思います。一人っ子なら好きなだけお菓子を食べられますが、兄弟姉妹がいたら分けなきゃいけませんよね。そういう「したいことがあるのにできない」というストレスが、工夫や交渉といった問題解決に子供を向かわせる。

プログラミングで天才的と言われている松岡聡先生(東京工業大学教授)なども、授業で習って興味を持ったわけではなくて、古いパソコンをもらって、どうやって動かしたらいいか分からないけど、いろいろいじっているうちにハマった、と。そういう方が多いんです。

ちょっと昔なら、ラジオを勝手に分解して怒られて......という人も多いと思うんですが。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中