最新記事

対談

保育園を変えれば、「AI×人口減少」の未来を乗り越えられる!?

2018年5月17日(木)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

加谷 あー、私もまさにラジオ少年でしたねえ。

新井 そうでしょう?(笑) 分解したら元に戻せなくなったとか、聴きたいのに聴けないとか、そういうストレスが「どうにかしたい」というプラスの気持ちにつながります。そういう渇望感がないと、世の中を理解したり、新しいものを生み出したりはできないんじゃないでしょうか。

環境が悪いほうがいいという意味では決してないんですが、やっぱり渇望感があるからこそ、人は大陸を移動してきたんだし、火を起こしたんだと思うんです。だから、渇望感が全然ない生活っていうのは、いいことがあるとは思えないですよね。

「0歳から全員保育園」が打開策になる

加谷 今の子供たちには、文章を理解する力が足りないだけでなく、リアリティも欠如しているわけですね。そうなると、たくさん経験をさせればいいということになると思うんですが、やはり家庭環境が極めて重要ということでしょうか?

新井 いえいえ。今の時代、家族だけで子供を育てるのはもう無理になっているので、反対に、0歳から全員保育園に入ったほうがいいんじゃないか、と私は考えています。

確かに経験はたくさんさせたほうがいいのですが、それは海外に行くとかそういうことではなくて、先ほども言った切実な経験――例えばおもちゃを奪い合うとか、給食の時間まで空腹を我慢するとか――そういう経験を保育園でどんどん積ませたらいいんじゃないかな、と思っています。

全ての子供が0歳から保育園に入れるようになれば、20~30代のお母さんの労働力を使えるようにもなります。大卒や大学院卒のお母さんが増えています。そういう方が、子供が小学4年生になって仕事を探したらレジ打ちのパートだった、というのは社会的損失でしかないですから。

加谷 今の20~30代はバブル世代の子供なので人数も多いですし、その年代の女性は労働市場における「最後の聖域」です。2025年問題に向けて、非常に重要な課題ですね。

それに、お母さんが働きに出れば家庭の可処分所得が増えて、当然、消費も確実に拡大しますよね。そんなにコストのかかる話じゃないですし、ものすごく効果的な打開策になるかもしれません。

新井 現在、企業の商品開発の現場に若い女性がいない、という問題があります。消費に関して一番発言力のある30代女性の声が反映されていないんです。それでは商品と消費者とのミスマッチを生むだけなので、その点でも会社にはダイバーシティ(多様性)があったほうがいいですよね。

それに所得が増えたら、もう1人産もうか、という気にもなりますよね。働かないで子供を預ける人は保育園にボランティアなどで行くようになれば、昔みたいに、大勢の大人の中で子供を育てることもできます。そうすると結果的に、読めない問題も解消すると思うんです。

だから、0歳から全員保育園というのは、ちょっと暴論かもしれませんけど、そう悪くもないと思うんです。同じ霊長類のゴリラっぽくていいかな、と(笑)。

構成:土居悦子


araibookcover-150.jpg
『AI vs.教科書が読めない子どもたち』
 新井紀子 著
 東洋経済新報社

kayabookcover-150.jpg
『ポスト新産業革命
 ――「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス


kayabanner.jpg

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中