最新記事

対談

保育園を変えれば、「AI×人口減少」の未来を乗り越えられる!?

2018年5月17日(木)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

新井 確かにそういった意見はネットでも多く見られました。「理解できないような教科書の書かれ方がそもそも悪いんだ」と。そうした意見に対して、これまでなら反論する術がありませんでした。でも、私たちのRSTのすごいところは、そうした意見をすぐに検証して反論できるところなんです。

だから実際、私たちも問題文を平易にして検証してみました。例えば、一文が長過ぎるのがよくないという意見があったので、短く切ってひとつひとつはごく簡潔な文章にしたり、「愛称」という単語が難しいと言われたので「あだ名」にしてみたり。

それらを1000人規模を対象にテストしてみたのですが、やっぱり正答率は上がらなかったんです。

加谷 ますます興味深いですね。おそらく、物事を認識するヒトの脳のアルゴリズムが当初多くの人が考えていたものと違っていた、ということなんでしょうね。ただ、そうだとすると、トレーニングしたからといって上達するようには思えないんですが、その点はどうでしょうか?

新井 それが、そうでもないんです。「気をつけて読む」と意識しただけでも読解力は相当上がります。でも、「気をつけて読む」ってものすごく曖昧ですよね。気をつけるって何ですか、みたいな。だから信じられないと多くの方が言うんですが、私に言わせると、決してそんなことはないんです。

と言うのも、もし「こうして、こうして、こうやれば理解できる」というように、認識のルールをひとつひとつ分解することができるなら、それは「東ロボくん」(*編注:新井氏が中心となった「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトで開発された人工知能の名称)に搭載できるはずなんです。

ところが、とにかく「自分は読めていないんだな」ということを認識して、気をつけて読むようにしていれば、いつか読めるようになっているということが起こるんです。そういう例は周りに結構あります。

何を書いているか分からないようなメールを私に出してきていた人が、気をつけるようになっただけで1年ほどで改善しました。本人は、昔の自分が書いたメールを見て、「何を言いたいのか分からない」なんて言っていますけどね。

加谷 自分では変わったことに気づかないけど、いつの間にかできるようになっているというのは、やはり人間のすごい能力ですね。

booktalk180511-2.jpg

加谷珪一(かや・けいいち)/経済評論家。1969年、仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。著書に『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト・アベノミクス時代の新しいお金の増やし方』(ビジネス社)、『お金は歴史で儲けなさい』(朝日新聞出版)など。弊誌ウェブサイトなど多くの媒体で連載を持つ Newsweek Japan

国語教育にシステマチックな方法論がない

加谷 RSTは、今は日本語だけだと思いますが、英語や他の言語で実施した場合はどうなるとお考えですか? 認識力には違いがあると思いますか?

新井 日本語は英語やフランス語などに比べると情緒的で論理的でないから、RSTの結果が悪いのではないか、と言う人がいます。私はそう思いません。それよりも国語教育と現状の社会とで齟齬が起こっているのではないかと思います。

日本って、このグローバルな世界では特異な国ですよね。90%以上の人が日本語を母語としていて、長い間、ほぼ単一の文化圏で人々は暮らしてきました。だから、そもそも日本語を教えるということに関して、システマチックな方法論を立てる必要性があまりなかった。日本の国語教育はシステマチックに日本語を教えるというより道徳教育的側面が強いですね。

学校で子供たちに作文を書かせるときも、「みんなで頑張ることができてよかったと思います」という風に、やたらと「思います」で気持ちを表現するようなものでOKとされています。

一方で欧米では、他国から人が入ってくることを前提に教育課程が作られています。だから、国語(母語)の教科書がものすごく論理的です。読めない・書けないことを前提に「こうやって、こうやって、こうやれば読めるようになる」という科学的な方法論ができ上がっているんです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇

ワールド

ウクライナのNATO加盟、現時点で合意なし=ルッテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中