最新記事

キャリア

STEAMとは何か 仕事を奪われる(?)AI時代を生き抜く教養

2018年3月16日(金)09時58分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

bowie15-iStock.

<STEMとSTEAMはどう違うのか。「A」の重要性とは? AI応用の最前線である航空管制の研究者が説く、AIを適度に恐れつつ、適切に活用するために必要な能力>

さまざまな分野でAI(人工知能)が話題になっている。「仕事が効率化される」とポジティブに受け入れる人もあれば、「仕事を奪われる」と警戒する意見もある。

AIによる車両の自動運転ひとつ取っても、「自動的にどこへでも、行きたい場所へ行ける」と歓迎する声がある一方、「空襲や暗殺まで自動化されてしまう」と、戦争やテロで悪用される危険性も指摘されている。

今週亡くなった宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士はかつて、「完全なるAIは自ら発展し、加速度的に自身を再設計し始め......人類の終焉をもたらす可能性がある」と述べたことがある。そして、グーグルは昨年末、AIが新たなAIを創り出すことに成功し、それは人間が創ったAIよりも効率的で優秀だと発表した。

「AI時代」は既に始まっている。果たして私たちは、この時代をどのようにして生きるべきなのだろうか。

人間にできてAIにできない仕事

この先AIで何が可能になるかではなく、この「AI時代」をどう生き抜いていくかを指南するのが、新刊『みんなでつくるAI時代――これからの教養としての「STEAM」』(CCCメディアハウス)だ。著者である伊藤恵理氏は、航空管制の研究者である。

近年、AIの主要な応用例として自動運転車の実用化が話題になっているが、「空の交通整理」である航空管制の世界では、いち早くAIが実用化されているのだという。空港では管制官の代わりにコンピューターが到着スケジューリング(滑走路に到着する航空機の順序付けと理想の到着時刻表の作成)を行い、国際線の民間機ではコックピットにAI制御の自動操縦システムが導入されている。

航空管制の世界でAI技術応用の最前線にいる著者によれば、人間にできてAIにできない仕事――すなわちAI時代に必要とされる仕事――は、主に3つに分けられるという。「社会のニーズと科学技術をつなぐ仕事」「物事の本質を分析する仕事」、そして「世界を舞台にコミュニケーションする仕事」だ。

例えば、航空管制のようなAI技術の応用例は、モヤモヤした現実から問題を抽象化し、仮説を立てて検証する姿勢がきっかけで生み出されているが、それを可能にしたのは人間の創造性だった。上記でいえば「物事の本質を分析する仕事」だ。

しばしば、AI時代に求められる能力は「クリエイティビティ(革新的な創造力)」や「コミュニケーション(意思疎通力)」だと、まるで合い言葉のように言及される。ただ、コミュニケーションはともかく、「クリエイティビティ」とは一体何だろうか。

本書では、ときに人々を眩惑しがちな「クリエイティブ」という言葉がほとんど使われていない。これからの私たちに求められている能力について、「国語が苦手なAIを超える想像力」「真実とファンタジーを区別する力」......といった具合に、読者がイメージしやすい説明をさまざまな角度から試みている。

「芸術(Art)」が新たな価値を創る

「STEM」という言葉をご存じだろうか。コンピューター全盛時代に必要とされる教育を構成する基本4要素である、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を取ったキーワードだ。奇しくもstemには「木の幹」「草の茎」といった意味がある。

だが、「科学・技術・工学・数学が大事だ」と無邪気に並べられてしまうと、いわゆる文科系の方々は肩身が狭いかもしれない。

最近では「STEM」を発展させた「STEAM」の重要性が訴えられており、著者もこれからのAI全盛時代に必要なのは「STEAM」であると説く。科学、技術、工学、数学に加えて、芸術(Art)が必要だというのである。steamは「蒸気」の意にもつながる。推進力であり、発電タービンを回す原動力でもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中