STEAMとは何か 仕事を奪われる(?)AI時代を生き抜く教養
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<STEMとSTEAMはどう違うのか。「A」の重要性とは? AI応用の最前線である航空管制の研究者が説く、AIを適度に恐れつつ、適切に活用するために必要な能力>
さまざまな分野でAI(人工知能)が話題になっている。「仕事が効率化される」とポジティブに受け入れる人もあれば、「仕事を奪われる」と警戒する意見もある。
AIによる車両の自動運転ひとつ取っても、「自動的にどこへでも、行きたい場所へ行ける」と歓迎する声がある一方、「空襲や暗殺まで自動化されてしまう」と、戦争やテロで悪用される危険性も指摘されている。
今週亡くなった宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士はかつて、「完全なるAIは自ら発展し、加速度的に自身を再設計し始め......人類の終焉をもたらす可能性がある」と述べたことがある。そして、グーグルは昨年末、AIが新たなAIを創り出すことに成功し、それは人間が創ったAIよりも効率的で優秀だと発表した。
「AI時代」は既に始まっている。果たして私たちは、この時代をどのようにして生きるべきなのだろうか。
人間にできてAIにできない仕事
この先AIで何が可能になるかではなく、この「AI時代」をどう生き抜いていくかを指南するのが、新刊『みんなでつくるAI時代――これからの教養としての「STEAM」』(CCCメディアハウス)だ。著者である伊藤恵理氏は、航空管制の研究者である。
近年、AIの主要な応用例として自動運転車の実用化が話題になっているが、「空の交通整理」である航空管制の世界では、いち早くAIが実用化されているのだという。空港では管制官の代わりにコンピューターが到着スケジューリング(滑走路に到着する航空機の順序付けと理想の到着時刻表の作成)を行い、国際線の民間機ではコックピットにAI制御の自動操縦システムが導入されている。
航空管制の世界でAI技術応用の最前線にいる著者によれば、人間にできてAIにできない仕事――すなわちAI時代に必要とされる仕事――は、主に3つに分けられるという。「社会のニーズと科学技術をつなぐ仕事」「物事の本質を分析する仕事」、そして「世界を舞台にコミュニケーションする仕事」だ。
例えば、航空管制のようなAI技術の応用例は、モヤモヤした現実から問題を抽象化し、仮説を立てて検証する姿勢がきっかけで生み出されているが、それを可能にしたのは人間の創造性だった。上記でいえば「物事の本質を分析する仕事」だ。
しばしば、AI時代に求められる能力は「クリエイティビティ(革新的な創造力)」や「コミュニケーション(意思疎通力)」だと、まるで合い言葉のように言及される。ただ、コミュニケーションはともかく、「クリエイティビティ」とは一体何だろうか。
本書では、ときに人々を眩惑しがちな「クリエイティブ」という言葉がほとんど使われていない。これからの私たちに求められている能力について、「国語が苦手なAIを超える想像力」「真実とファンタジーを区別する力」......といった具合に、読者がイメージしやすい説明をさまざまな角度から試みている。
「芸術(Art)」が新たな価値を創る
「STEM」という言葉をご存じだろうか。コンピューター全盛時代に必要とされる教育を構成する基本4要素である、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を取ったキーワードだ。奇しくもstemには「木の幹」「草の茎」といった意味がある。
だが、「科学・技術・工学・数学が大事だ」と無邪気に並べられてしまうと、いわゆる文科系の方々は肩身が狭いかもしれない。
最近では「STEM」を発展させた「STEAM」の重要性が訴えられており、著者もこれからのAI全盛時代に必要なのは「STEAM」であると説く。科学、技術、工学、数学に加えて、芸術(Art)が必要だというのである。steamは「蒸気」の意にもつながる。推進力であり、発電タービンを回す原動力でもある。